第1回トランスジェンダー就職・働き方シンポジウム開催レポート

第1回 トランスジェンダー就職・働き方シンポジウム概要

トランスジェンダーの就職や働く環境の改善に向けて、企業・大学(就職支援課)・トランスジェンダー当事者らが集い、トランスジェンダーの働き方や就職・転職活動に関する事例や情報を共有することを目的としたシンポジウムの第1回を開催致しました。

日程・開催方法

2021年6月22日(火)15:00~17:00 オンライン開催

参加大学・団体・企業

【 大学 】
学習院大学、鎌倉女子大学、関西大学、京都産業大学、駒澤大学、信州大学、洗足学園音楽大学、創価大学、電気通信大学、東京都市大学、東京理科大学、東北福祉大学、東洋大学、同志社大学、福井大学、法政大学、北里学園大学、北里大学、武庫川女子大学、立教大学、和歌山大学、早稲田大学 (計22大学)

【 企業・団体 】
第一三共株式会社、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社トリドールホールディングス、株式会社丸井、株式会社メルカリ、日の丸交通株式会社、株式会社more、一般社団法人LGBT-JAPAN、株式会社Nijiリクルーティング (計9社・団体)

登壇者

【 トランスジェンダー当事者 】
田附 亮 さん(一般社団法人LGBT-JAPAN代表/FTMトランスジェンダー)
S.A さん(大学4年生/FTMトランスジェンダー)
N.H さん(大学3年生/FTMトランスジェンダー)

【 企業 】
日の丸交通株式会社
株式会社more

プログラム
第1部 トランスジェンダー当事者3名による就活・働くに関する体験談
第2部 企業2社による採用現場・就労環境に関する取り組み事例共有

 

トランスジェンダー当事者3名による就活・働くに関する体験談

第1部では、FTMトランスジェンダー当事者の3名から、「就職」や「働き方」に関する体験談について、お話し頂きました。

田附 亮 さん(一般社団法人LGBT-JAPAN代表/FTMトランスジェンダー)

一般社団法人LGBT-JAPANで代表理事をされている田附亮さんからお話を頂きました。現在は、LGBT-JAPANとして企業研修の実施や当事者からの相談対応など、社会とLGBT当事者の架け橋となる活動をしながら、一般企業でもお仕事をされています。つい先日、お住まいの自治体へパートナーシップ制度の申請をされており、そのあたりのお話についても伺いました。

就職(転職)活動中に困ったこと

就活時の服装や履歴書の性別欄の書き方、カミングアウトのタイミングに関して、実体験をもとにお話し頂きました。ホルモン注射前はボーイッシュな女性として見られることが多く、身体にフィットしたメンズスーツの入手が困難であったことや履歴書には採用後のことを考えて戸籍性に○をつけるべきか、働きたい格好の性別に合わせて○をつけるべきか、とても迷われたそうです。

また、移行状況に合わせて、企業へのカミングアウトのタイミングを変えていたというお話しもあり、企業からはどのタイミングでカミングアウトしてもらっても大丈夫なようにしていきたいという声が多くありました。

働き始めて困ったこと

移行期間中、飲食店で勤めていた際、「お兄さん!」「お姉さん!」「どっちでも振り向いた!」とお客様から冷やかされたことがあり、悔しい思いをされたとお話し頂きました。見た目でなく接客力で勝負できるようになろうと努めていたというお話しもあり、前向きに行動されてきた姿にこれから社会人になる他の当事者の方々も勇気づけられている様子でした。

また、カミングアウトをして問題なく働ける職場であっても、「もともと女性だからきれい好きだよね」など、不本意なラベリングを受けたこともあったそうです。相手に悪気がないからこそ、悔しい思いをしたとお話しされており、日常会話にあるジェンダーバイアスの問題の難しさについても考える機会となりました。

働きやすい職場とは

現在の職場での体験をもとに、田附さんが思う働きやすい職場環境についてお話し頂きました。現職では、定期的に全社員を対象としたハラスメント研修が実施されており、またダイバーシティ経営の方針についても明言されていることから、コンプライアンスの意識が働く社員一人ひとりに広く周知されているそうです。

また、社員同士のコミュニケーションが取りやすい雰囲気もあることから、セクシュアリティに限らず、何かあったときに相談がしやすいのも働きやすい理由の1つとお話しされていました。

田附さんがお勤めされている職場には多様性を尊重する風土が醸成されており、客観的にみても働きやすい環境に思えます。一方で田附さんからは、“FTMトランスジェンダー=田附亮みたいな人” というイメージが社員についてしまわないか懸念しているというお話もありました。

“全トランスジェンダーは戸籍変更をするのがゴールと思っている人も多いかもしれないが、実際には様々な選択肢があり、人によって希望は異なる” “実際に私も戸籍上の性別を変更することを望んでいない” “トランスジェンダーのロールモデル的存在に自分がなってしまうことで起こりえる、周囲のトランスジェンダーに対する思い込みに気を付けていきたい” というお話に、気づきを得ている参加者も非常に多くいました。

S.A さん(大学4年生/FTMトランスジェンダー)

都内の私立大学に通う4年生の S.Aさん からお話を頂きました。現在進行形で就職活動をされている中での、キャリアセンターとの関わり方や企業を選ぶうえで見ているポイントなど、就職活動の体験談を共有頂きました。

キャリアセンターへのカミングアウト

大学3年次の5月に行われる就活個別面談の中で、キャリアセンターへ初めてカミングアウトをされたときのことをお話し頂きました。勇気を出して男性として働きたいという思いを伝えたものの、担当者からは「男性として働くことは選択肢を狭めてしまうからもったいない」「女性として就活した方がよい」というアドバイスがあったそうです。相手に悪意はないと理解しながらも、とても大きなショックを受けてしまい、一時期はキャリアセンターへ相談ができない状態となってしまったことをお話し頂きました。

その後、別の担当者の方と面談をする機会があり、その方がとても親身に相談に乗ってくれ、男性として働くことも全力で応援してくれたそうです。現在のキャリアセンターとの関係は良好で、よき理解者・味方ができてとても嬉しかったこともお話し頂きました。

企業への初めてのカミングアウト

S.Aさんは就職活動当初、カミングアウトすることに大きな不安を感じられていたものの、現在は自ら積極的にカミングアウトをして就職活動をされているそうです。カミングアウトをするきっかけとなった出来事として、ある会社の説明会でのエピソードをお話し頂きました。

その会社では、「他者への想像性を持つことを大事にする」という行動指針を大切にしているという説明があり、この会社であればカミングアウトができるのではないか?と感じられたそうです。実際にカミングアウトをしたところ、「話してくれてありがとう」という言葉が人事の方からあり、その言葉があったからこそ、安心して次の選考に進むことができたとお話しされていました。

就活の中でのカミングアウトに対する思い

就職活動の中で積極的にカミングアウトをされている理由として、“自分が自分らしく生きるために必要なこと” “人が好きだからこそ、人と真摯に向き合いたい” という思いがあることをお話し頂きました。カミングアウトしたことで、ちゃんと向き合ってくれる企業があることが分かり、勇気をもらえたとお話しされていました。

一方で、LGBTダイバーシティ推進を掲げている企業の子会社でカミングアウトをしたところ、「トランスジェンダーの方を採用することは会社としてリスクがある」と返答されたこともあったそうです。カミングアウトをするうえでの不安や覚悟について、当事者から初めて直接聞いたという参加者も多く、話しやすい環境づくりの重要性やカミングアウト対応について、改めて考える時間となりました。

男性として働くことを大切にされているS.Aさんですが、就職活動の軸はLGBTに関する制度や取り組みがあるかどうかではなく、“人” です。制度や環境を作るのは “人” だからこそ、どんな考え方や価値観の人が働いているか知りたいとお話しされている姿はとても印象的でした。

S.Aさんからは最後に、“相談したくてもできていない人は必ずいると思うので、キャリアセンターの方には相談して大丈夫という発信をしてほしい” というメッセージがありました。キャリアセンターの方からも「まずは安心して話せる環境づくりをしたい」「相談ができるという発信することが大切だと気付かされた」「大学を動かすことは大変だけれど、個人でできることもあるはずなので、まずは一人の人として寄り添えるようになりたい」というような感想を多く頂きました。

N.H さん(大学3年生/FTMトランスジェンダー)

現在大学3年生で、大学ではSOGIコミュニティの運営にも携わられている N.H さんより、これから就職活動が本格化していく中で、今後の就職活動に向けて考えていることや企業に期待することについて、お話し頂きました。

移行前・移行後の大学生活の変化

N.Hさんは女子学生として入学をされ、その後、ホルモン注射や胸の手術を受けるために休学し、現在は男子学生として復学をされています。入学当初は先生や友人から女性として接せられていたものの、声や見た目が変わったことで、復学後は自然と男性として扱われるようになったとお話しされていました。

また、治療を経て、周りの人から男性として認識されるようになった結果、自分に自信がもてるようになり、性格も明るく前向きに変わったそうです。もともとは埋没したい(出生時の性を知られず、社会の中で完全に自らの望む性別で生きること)という気持ちがとても強かったそうですが、男性として生活する中で少しずつ考え方が変わり、現在はカミングアウトをして、大学のSOGIコミュニティの運営に携わっていることもお話し頂きました。“自分の経験が誰かの役に立てばという気持ちが芽生え、行動が変わった” とお話しされている姿は大変印象的でした。

就職活動における不安

現在は男性として認識されることしかないとお話しされていたN.Hさんですが、以前に一度、キャリアセンターの方とWEB面談をされた際も男性としての就職活動のアドバイスを受けたそうです。

男性として認識されることはとても嬉しいことではあるものの、やはり戸籍性が変わっていない以上、どこかのタイミングで企業にはカミングアウトが必要であり、否定をされてしまうのではないかという不安もあるとお話しされていました。

企業に希望すること

これから就職活動を本格的にスタートするにあたり、企業に対して希望することについて、“安心” と “前進” の2つのキーワードを用いてお話し頂きました。

1つ目の “安心” というキーワードについては、男性の格好をして働くうえで、現在は戸籍上や身体の性別が女性であることから、カミングアウトの範囲やトイレや更衣室などをどうしていくのか、事前に相談をすることで安心して働きたいと考えられています。“トイレについてなど、話題に出すことはセンシティブに思われるかもしれないですが、仕事・生活をするうえでの延長線上の話なので、私はちゃんと話し合いたいと思っています” とお話しされていました。

2つ目のキーワードは “前進” です。N.Hさん自身はより自分らしく働いていくために、また企業は受け入れ体制を整えるために、それぞれがお互いの未来を前向きに考えていける関係性が築ける環境という意味を込めて、 “前進” というキーワードを用いてお話ししていただきました。

どのタイミングでセクシュアリティを伝えるべきか、伝えたときの相手の反応など、男性として埋没して面接を受けることもできるからこその不安に、企業の人事・採用担当者の方をはじめ、キャリアセンターの方々も、どうしたら安心して話しやすい雰囲気をつくることができるか、真剣に考えながらN.Hさんの話を聴かれていました。

特に、FTMトランスジェンダーだからこうなんじゃないかなど、自分の持っている知識だけで判断するのではなく、したいこと・できること・できないことの確認をお互いにしながら、対話の中で解決策をみつけていきたいというお話に、共感をされている企業の人事や採用担当者の方が多くいました。

N.Hさんからは、“さりげなくでも何かしらのLGBTに関する掲示や相談ができるという発信をしていてもらいたい”  “否定しないことからはじめてほしい” “参加は任意でもコミュニティは絶対にあった方がいいと思う” などの具体的な取り組みのアドバイスも頂きました。

 

企業2社による採用現場・就労環境に関する取り組み事例共有

第2部では、実際にトランスジェンダーを含むLGBTの採用・働きやすい環境づくりに注力されている日の丸交通株式会社と株式会社moreの人事の方より、自社のLGBT取り組みについて、ご紹介頂きました。

  • なぜLGBTダイバーシティを取り組んでいるのか
  • 採用時・就業時における取り組み事例
  • 社内のLGBT理解促進のための風土づくりに向けての取り組み事例
  • LGBTに関する制度のご紹介
  • 社内外への情報発信の事例

参加された企業の人事の方からは「細かく事例を紹介頂いたのでとても参考になった」「積極的に発信をしていくことの重要性を感じた」という感想や、大学のキャリアセンターの方々からは「学生にも今回のような理解のある企業があることを伝え、孤独を感じないようにしていきたい」という感想を頂きました。また、登壇頂いた当事者の方々からも「こんなに考えてくれている人事の方がいるということが嬉しかった」というお声を頂きました。

 

参加者の声

就職活動を始める学生が、どのようにすれば気軽にキャリアセンターを利用できるかについて、当事者の方々に具体的なアドバイスを頂けたことが宝となりました。

当事者の方の話をリアルに聞ける経験ができ、学生の本音を聞けて良かったです。早急に、キャリアセンターに学生が相談しやすい環境づくりをしていかないと思いました。

「配慮は察するものではなく、議論や対話されて構築されるもの」 というのは大変、身にしみました。 私自身、配慮は察するものだと考えていたことに気がつきました。

学生さんたちのまっすぐさに心打たれました。お話を伺っているなかで、確かに学生時代までは性別を問われるシーンはなく、最初の壁が就職活動であったり会社に入ってからとこれまで聞いてきたことに納得しました。 企業として、できることはなにか、改めて考えさせられました。

トランスジェンダー当事者が困っていることを知ることができて非常によかったです。全員が性転換を望んでいるわけではないというのは非常に大きい気づきでした。自分自身がアンコンシャスバイアスを抱いているということがわかったのでこれからもこういった機会をいただけると非常にうれしいです。

就職活動の際にトランスジェンダーの方が悩む点を聞かせていただいたことが非常に良かったです。採用という観点から見れば、すでに実施している施策があるものの、相手がわざわざ聞く必要がないよう、充分に発信しなければならないと改めて思いました。

企業の事例について共通して言えることとして、社員に対する教育(コンプライアンス・ハラスメント)を定期的に行い、LGBTに対する教養を高めているという点がとても勉強になりました。

企業側の事情を知ることで学生にも多様な視点を提供でき、話しやすくなりました。

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