書籍概要
『ケーススタディ 職場のLGBT』
日本弁護士連合会「LGBTの権利に関するプロジェクトチーム」や「LGBT支援法律家ネットワーク」に所属する、弁護士の寺原真希子さんが、弁護士の観点から職場でのLGBT対応についてまとめている書籍です。
社内や業界で生じやすいセクシュアリティにまつわる疑問が42個のQ&Aという形でケーススタディが紹介されています。
弁護士の観点から書かれており、人権やダイバーシティの推進という側面とは別に、コンプライアンス的にどうなのか?という点でとても参考になります。
職場でのLGBT対応のヒントを知りたい方におすすめの一冊です。
印象的なコンテンツ
【自認する性別に基づく髪型・服装を理由とする配置転換の可否】(56ページ)
『営業職に就くある男性社員が、最近、髪型と服装を女性的に変更し、女装したような外見になっています・・・(中略)。取引先が違和感を持つと思われるので、この社員を事務職に配置転換したいと思うのですが、問題ありませんか。』
このQに対しては、会社がもつ配置転換命令権とはどういうもので、どんな場合に配置転換命令が認められるかという点からスタートします。
そして、業務上の必要性や他の不当な動機・目的の有無、当該社員への影響などを加味して、この命令権の濫用にあたるかどうかが判断されることになります。
さらに、この質問のケースでは配置転換命令権の濫用にあたるとして、配置転換命令は無効であると判断される可能性が高いとのことです。
【性別適合手術を理由とする傷病休暇の可否】(123ページ)
『ある社員から「自分は性同一性障害である。性別適合手術を受けるために海外に行く必要があり、・・・(中略)、傷病休暇を認めてほしい」との申し出がありました。どのように対応すべきでしょうか。』
このQに対しては、傷病休暇は就業規則において会社が定めるものなので、その規程内容次第ではあるけれど、性別適合手術を受けることは、他の負傷・疾病の療養が必要である場合と同様に申し出に応じる必要があるとの見解です。
一方で、トランスジェンダー当事者であっても全員が性別適合手術を望んでいるわけではないという点にも言及してあります。
【社内相談窓口を設けるにあたって】
『個別的な相談に対応する窓口を設けたいと思っています。どのように進めればよいでしょうか』
このQに対しては、相談窓口担当社員に対して、研修の実施と守秘義務の遵守を徹底させることが必要不可欠とのことです。相談窓口の意義・運用方法・研修についてもポイントが書かれています。また外部の専門家に相談窓口を委嘱することも一考とのことです。
感じたこと
42個のケーススタディは、実際にありそうな事例が多く、しかも法的な観点でのコメントなので、企業の担当者としては参考になるところは多いと思います。
またケーススタディの中には、裁判事例なども盛り込まれているのも良いです。
一方でケーススタディはあくまで一般論ではあるので、実際に自社での取り組みに適用するためにはもう一工夫が必要です。
・経営陣の理解
・自社の社風
・取り組み状況
・相談者の性格
・相談者の希望
・他社の事例
などを加味して、現実的に何ができるか、何をしなければいけないか考えていくことも大切になってきます。