LGBT当事者の中には、LGBTコミュニティに属していたり、同じセクシュアリティの友人がいる人もいますが、身近に同じセクシュアリティの人が全くいなく、自分一人で抱え込んでしまう人もいます。

今回ご紹介するSさんは、これまで誰にも自分のセクシュアリティをカミングアウトしたことがなかったのですが、初めてカミングアウトをすることで自分自身が大きく変わり、結果的に仕事も転職することになりました。そんな事例をご紹介します。

27歳のMTFトランスジェンダーです。女性としての自認は小さい時からありました。静岡県という土地柄のせいか、まわりはLGBTに理解のある雰囲気は全然なかったですね。

大学に入るときに、東京に出てきて一人暮らしを始めました。大学時代も結局、カミングアウトもできないし、本当はスカートとか履きたかったのですが、ユニセックスな服装で我慢しているような学生でした。

専門商社に就職して営業職として4年ほど働きました。自分のセクシュアリティに関しては誰にも言っていなかったのですが、同僚の中で、理解してくれそうな人に出会いました。その人は私に向けてという感じではなかったのですが、一般的な会話の中でLGBTを差別しないというようなニュアンスのことをよく言っていたので、ある時、思い切って自分のセクシュアリティをカミングアウトしてみました。
彼は、カミングアウトをした瞬間は受け止めてくれたようだったのですが、その後、アウティングこそされませんでしたが明らかに距離を置くようになり、避けられるようになってしまいました。それまで自分のセクシュアリティを明確に拒絶されたことはなかったので、ショックでもあったし、逆に、誰か一人にでも話をしたい!理解してほしい!という気持ちが強くなりました。

会社内の人で話せそうな人もいなかったので、中学時代からの一番の親友にあったときに、思い切ってカミングアウトをしました。その親友とはもう10年以上の付き合いだったのですが、最初はちょっと驚いていましたが、そのあとはすんなり受け入れてくれました。カミングアウトをした瞬間だけでなく、そのあとも全然変わらずメールとかをくれています。彼がこんなにすんなり受け入れてくれるとは思っていなかったので、意外でしたし、もっと早く話せばよかったとも思いました。私のほうが先入観をもって接していたのかもしれません。
一人にカミングアウトができたことで、とても気持ちが落ち着いた感じです。

これまで職場ではカミングアウトは必要ないと思って男性として働いていましたが、一人に受け入れられたことで、やはり女性として生きていきたいと思うようになりました。今はホルモン治療を始めて半年くらいです。このままいくと、来年の夏にはYシャツ1枚では過ごせなくなると思います。
そのまま同じところで働き続けるという選択肢はなかったので思い切って転職をすることにしました。

今の職場には、セクシュアリティをカミングアウトしたうえで入社しております。女性として生きる!とか女性として働く!というのがまだよくわからないのですが、晴れ晴れとした気持ちでいっぱいです。自分では気づいていなかったのですがストレスがかかっていたのかもしれません。

Sさんのように職場ではカミングアウトをせずに働いている人が大半です。LGBTフレンドリーな職場というもののイメージがつかないという声もよくききます。
インタビューの最後に、Sさんは、『カミングアウトをして初めて、カミングアウトをして生活するということが分かった』と話していました。