『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』

LGBTの中でも、トランスジェンダー当事者は働く上での難しさが一般的に多いです。実際に、既存社員や、採用面接の場でトランスジェンダーの方からカミングアウトを受けて、どのように対応をしたらいいかとご相談をいただくことも多いです。

本書は、LGBTの中でもトランスジェンダーに絞って、職場環境づくりについて整理した一冊です。トランスジェンダーが働きやすい職場環境とは何か?ということに関しての教科書として良書です。

どういう取り組みが望ましいか、また実際に働くトランスジェンダーの声も含めて、参考になる点はたくさんあります。

ただトランスジェンダーも一人ひとり考え方も状況も希望も異なります。実務的には教科書的対応では、対応しきれないことや、意図しない形になるケースもあります。

弊社では、職場での実際のカミングアウトを数多くサポートしているので、実務的に留意したほうが良い点を本記事の最後に補足いたします。あわせてご参考にしていただければ幸いです。

トランスジェンダーの方からカミングアウトを受けてどのように対応していいか悩んでいるという方におすすめの一冊です。

書籍概要

LGBTの基礎知識という部分は比較的軽くなっており、トランスジェンダー・性同一性障害とは?企業としてのトランスジェンダー対応という部分が中心でまとめられています。

当事者の声も、LGBではなく、トランスジェンダーやXジェンダーの声が掲載されています。LGBT全般ではなく、トランスジェンダーと働き方という部分に特化しているのが本書の特徴です。

印象的なコンテンツ

第2章 トランスジェンダー・性同一性障害とはなにか

トランスジェンダー治療や性同一性障害との違いなどが分かりやすくまとめられています。

性同一性障害の診断書の有無による違いという説明にとどまらず、診断書をとらない(とれない)理由や、診断書があっても手術をしない理由など多様なケースについての説明があります。

第5章 職場での性別移行支援

カミングアウトの受け止め方から、希望する性別の取り扱い、通院への配慮、制服、トイレ、お客様対応まで幅広く網羅されています。

第8章 座談会「トランスジェンダーも働きやすい職場って、どんな職場?」

5人のトランスジェンダー(Xジェンダー)が就活や就労における困りごとや嬉しかった対応、働きやすい職場について語っています。

「カテゴリーに関係なく、1人の人間として扱ってほしい」という言葉がでてきます。“LGBT”を特別視しないというフレーズと近い感覚だと思います。当事者の実感のこもった言葉がいくつもでてきます。

巻末資料 「トランスジェンダーの社員が職場で対応を望む場合のヒアリングシート」

人事担当者用、本人記入用と2種類が例示されています。このヒアリングシートの項目は、企業ごとに適宜直して使用することが可能となっています。ヒアリングシート自体も参考になりますが、ヒアリング時の相談を受ける側の心構えについての記載も有用です(59ページ)。特に「『10年以上、誰にも言わずに生きてきた』人もおり、自分の状況を言葉ではうまく説明できない人もいます」というのは、大事なポイントです。

感じたこと

LGBTフレンドリーをうたっている企業であってもそもそも性別移行が認められるのか不安に感じている当事者は数多くいます。その場合、相談(カミングアウト)に至る前に、あきらめて退職に至るケースが非常に多いです。

本書では、ヒアリングシートなども掲載されており、教科書として参考になる部分は多いですが、ヒアリング項目の内容や通称名の使用の対応などはこのまま使うのではなく、実際にはそのトランスジェンダー当事者の状況・希望によってもう少し工夫が必要になるケースが多くあります。

本書を教科書として参考にしながらも、①相談できる体制を整えること②その姿勢を見えるようにすること③相談員の教育研修が実務的には大切になってきます。