Nijiリクルーティングは今月をもって設立5年目を迎えました。2016年に設立した際には、渋谷区と世田谷区のパートナーシップ制度はできたばかりで、“LGBT”という言葉がその新規性でメディアに注目され始めたころでした。
それから4年間で、企業のLGBT取り組みはどのように変わってきたでしょうか?
2016年はPRIDE指標元年です。初年度82社だった受賞企業が2019年には194社まで大きく増加しました。一方で、上場企業が約4,000社以上、全国に株式会社は100万社以上あるといわれていることを考えると、LGBTの取り組みをしている企業はまだまだほんの一握りです。
この4年間を振り返って企業がLGBT取り組みを進めるうえでの課題を整理してみました。
一つ目は、企業にとってのメリットという考え方です。
LGBTの働きやすさは人権問題という考えもありますが、やはりそのアプローチだけでは企業としては動きにくいというのが本音だと思います。大切なのはLGBT取り組みを進めることが企業にとってメリットがあるということを経営者が認識・実感することです。一方で費用対効果という言葉もあります。『パートナーシップ制度や相談窓口を設けたけれど、実際の利用者がほとんどいない』という話はよくあります。しかし、もともと働きやすさ(ダイバーシティ)を数値化するということには困難があります。
企業理念の浸透に関して費用対効果を問う経営者は少ないことを考えると、同様にLGBT取り組み(というかダイバーシティの浸透)ということも企業の価値観や姿勢の問題であり、費用対効果を測るべきではないと考えています。
数値化しにくいからこそ、企業にとってメリットがあると経営者が信じられるかどうかが大切なポイントになります。
二つ目は、LGBT当事者の声が届きにくいという点があります。
職場でカミングアウトをして働いているLGBT当事者は各種調査による数%という数字になっています。つまり90%以上の人がカミングアウトをできていません(していません)。
弊社ではこれまで3,000人以上のLGBTの当事者の相談を受け付けてきました。僕自身もしっかりとお話をした人だけでも500人以上の方との交流があります。この方々の大半はやはり職場ではカミングアウトをしていません。中には人生初のカミングアウトが僕に対して、という人もいらっしゃいます。このような人と話をしていると、書籍やメディア、研修講師などでお話をされている当事者とはかなり異なる感覚や考えを持っている人も多いと感じています。どちらもLGBT属性の人にはなりますが、LGBTの中のかなりの多数派であるカミングアウトをしていない/できないという人々の悩みや希望や価値観や考え方が、表に出ないため伝わりにくいということが起きています。
これがもっと伝わると、企業としてもより効果的な取り組みが進められると思います。
この点に関しては、弊社では直接、カミングアウトをしていない人の話を聞いているからこそ、それをいかに企業の担当者に伝えていくか、というのは弊社にとっても大きな課題だと考えています。
三つ目は特別視という感覚です。
LGBT当事者と言っても、世の中にたくさんある多様性の一つと言えます。だからこそLGBTというのを特別視する必要はないという考えもあります。またLGBT当事者の中にも特別視をしないで“普通に”接してほしいという声も多く聞きますし、PRIDE指標を受賞している企業も含めて、基本的には特別なことはしないとしている企業もあります。一方で、LGBTを見たことがないとかテレビや新宿二丁目の中の人と思っている人も少なくないです。同じ職場に、隣の席にいるかもしれないという感覚を持っている人はかなり少数派だと思います。だからこそ、LGBTということが“バレる”と差別や嘲笑の対象になることも多く、また入社にあたってカミングアウトをするとそれが理由で選考に落ちることもよくあるのが現実です。
本来は、特別視をすることではないでしょう。ただ今の日本社会においては過渡期としてLGBTということに注目をすることも必要だと思います。
今回のコロナ禍でテレワークの可能性が大きくクローズアップされました。これは意識次第でいろいろな可能性があることを感じさせます。
Nijiリクルーティングは『LGBTダイバーシティを推進することで、すべての人が仕事で活躍できる社会を創る』という理念を掲げて活動をしております。4年前の創業時にこの理念を定めたのですが、同時に、一日でも早くこのような特別視をした理念を必要としない社会を創ろう!と考えています。ダイバーシティ&インクルージョンを進めることは働く人と、企業の双方にとってメリットの大きいものだと考えています。