『LGBTとハラスメント』

2020年6月から施行されているパワハラ防止法ではSOGIハラとアウティングもパワハラに含まれ、その防止対策を講ずることが企業や地方自治体に義務付けられています。

本書では、LGBTとは、というような基礎知識に関しては、本当に基礎の基礎だけ序章で触れられていますが、基本的にはそれを理解している人を対象に、SOGIハラの具体例とその対応が書かれています。

2020年7月に出版されたばかり、最新の状況を踏まえて、整理して書かれているのでLGBT施策を進めるダイバーシティや人事担当者、あるいは経営者には一読をお勧めします。

書籍概要

LGBT法連合会の事務局長をしている神谷さんとLGBT関連情報を発信している一般社団法人fairの代表理事である松岡さんの共著です。お二人の直接の体験も一部書かれていますが、周りのLGBT当事者の声を集めたものをうまく整理して書かれています。

第一章 『LGBT』へのよくある勘違い~ネガティブ編

第二章 『LGBT』へのよくある勘違い~一見ポジティブ編

第三章 「LGBT」に限らないよくある勘違い

第四章 「SOGIハラ・アウティング防止」法とは

第五章 LGBTをめぐる「人事・労務制度」

『“知らなかった”と“知ってるつもり”が“知って良かった”に変わる、必読の一冊です』というコピーが書籍の帯にかかれています。よくある勘違いというものを、ネガティブ編と一見ポジティブに分けて整理している点は、わかりやすく読みやすいです。

印象的なコンテンツ

『NGワードが分かっていても、セクシュアルマイノリティとのコミュニケーションが完璧になるわけではありません。セクシュアルマイノリティを「特別」なものや「腫れ物」として捉えるのではなく、一人の人間として、相手が心地よく思える言葉遣いをしていくことが重要ではないでしょうか』(P77)

ダイバーシティ担当者も含めて、LGBTを理解しよう、アライになりたい!と思う人からの、「分かりやすいNGワードを知りたい」という声はとても多いからこその、一見ポジティブ編の最初にかかれている勘違いケースです。

『もしアライの人がセクシュアルマイノリティを「かわいそうな人たち」だから支援したいというモチベーションで活動している場合、危険な傾向です』(P92)

セクシュアルマイノリティを弱い立場の人と捉えて、その意志と関係なくその人の利益になるという理由で干渉しやすいということを注意しています。LGBT研修をしていると、当事者の“かわいそうな話”を聞きたいという声もあります。

パワハラ防止法で設置を求める相談窓口は『ハードルが高いのは、相談の内容や状況に応じて適切に対応ができるようにすると明記されています』(P132)

相談窓口の設置自体は、既存のハラスメント窓口を活用するなどして対応は可能です。ただ『きちんと義務に対応するためには、この本の内容くらいは朝飯前!な勢いでの学習が必要になる』(P133)と書かれています。実際の相談は、個別性が高いので、実際には書籍の知識だけも不十分で、結局は多くの当事者と話した経験が大切になってくると考えます。

『今回のハラスメント法制の隠れたインパクトは、職場のプライバシー情報の管理が問われるものである』(P156)

パワハラ防止法においては“性自認”と“性的指向”は機微な個人情報と位置付けられています。アウティングの話と絡んで、この個人情報をどう管理するか?というのは意識面と仕組み(制度やシステム)面の両面の難しさがかなりあります。

感じたこと

著者はLGBT当事者の声も、LGBT取り組みを進めている企業の声もよく理解されているので、その点で必要な情報が豊富でかつ分かりやすく書かれています。

一方で、このパワハラ防止法の対策をとることと、働きやすい職場をつくることは必ずしもイコールではないというのも現実です。

LGBTに関してどのような取り組みをすればいいのかは?正解は一つではなく、各企業・職場の既存の文化を尊重したうえでの対応が必要になるため、ダイバーシティや人事担当者を悩ませる点でもあると感じています。

考えるうえでの参考書としてお勧めします。