契約企業の概要

世界的に事業展開している外資系金融機関の日本法人。日本法人では日本国籍の社員が大多数ではあるが、外資系らしくダイバーシティ&インクルージョンには以前から積極的に取り組んでおり、LGBTに関しても研修やeラーニングを定期的に実施し、コミュニティ活動やアライとしてのLGBTサポート活動も積極的に行っている。

相談内容

相談者(Aさん)は東京本社の営業部門のマネージャー(LGBT非当事者)でした。Aさんは20名ほどの部下がいるのですが、その一人からカミングアウトを受けたとのことです。「部下のBさん(戸籍男性で男性として勤務している)から、メンズスーツで勤務するのはずっと苦痛だったので、これからは女性のスーツで勤務をしたい」という相談があったそうです。

この企業ではレズビアン・ゲイでカミングアウトをして働いている当事者は10名以上おり、Aさんの職場にもいるので、Aさんとしても比較的わかっているつもりだったのですが、服装に関して相談を受けたのは初めてで対応に迷ったことと、アウティングについても研修などでしっかり学んでいたのもあり、まずは外部の相談窓口に相談をしたとのことです。

Bさんの話を詳しく聞いてみると、Bさんの性自認としては男性であり、女性という認識ではなく、移行も望んでいないとのことです。服装は女性用を希望し、トイレなどはどんな形でも大丈夫ということでした。

Aさんとしては、Bさんはトランスジェンダー⁈として対応をすべきなのか?それとも女装を趣味の問題と考えてしまっていいのか?どう対応をすべきか悩んでいました。

弊社の外部相談窓口対応

まず女装とLGBTの関係についてです。女装とは、一般的に男性が女性の服装(メイクや髪形も含む)をすることを指します。この場合にいう“男性”は戸籍男性を指す場合もあれば、性自認が男性を指す場合もあります(使う人や場面によって異なります)。LGBTとくくられる性的マイノリティの中でも、戸籍男性で女性の服装をする人は、MTFトランスジェンダー、ゲイ、戸籍男性のXジェンダーなどもいます。またLGBTに該当しない異性愛のシスジェンダー男性も女装をする人もいます。

つまり、女装とLGBTというのは関係がありそうですが、別の視点での区分になります。

このようなことをまずはAさんに説明したうえで、AさんもBさんのことも匿名という形で、社内のダイバーシティ担当者にも会社としての考えの確認をしました。

LGBTフレンドリー企業としての対応

会社としては、MTFトランスジェンダー(戸籍:男性、性自認:女性)でカミングアウトをしている人もいなかったので、その人の働きやすさを最優先すべきという意見から、女装趣味の人は特別の配慮は不要という意見まで人事部内でも多少意見が割れたようです。

結局、Aさん、Bさんの了解を得たうえで、ダイバーシティ担当者も交えた面談を行いました。Bさんとしては、メンズスーツを着用することに対する心理的なハードル・辛さをしっかり説明し、結局、女性の服装での勤務が認められることになりました。

 

今回のご相談は、企業としての対応において、どこに線を引くか、という問題です。LGBT取り組みを具体的に進めようとするとしばしば問題になります。趣味で女装する異性愛シスジェンダーと、MTFトランスジェンダーは、まったく異なります。しかしシスジェンダー(戸籍も性自認も男性)で女性装をしたい人と、趣味で女装の人を外形的に明確に区分することは非常に難しいです。

LGBTというテーマでは自分がどう思うか?ということが一番大切になります。ラベリングをすることは本人にとっては帰属意識が高まり幸福感が高まる場合もありますが、企業がどう取り組みべきかという意味では、女装とLGBTの違いについて外形的に定義づけや区別をすることではなく、一人一人としっかり向きあって解決をしていくことが大切になります。