LGBTに関する研修やeラーニングを実施する企業が年々増えています。研修には対象別に役員や管理職向け研修や人事部向け研修などもありますが、最近は一般社員向けの研修も増えています。また一般社員向けは研修ではカバーしきれないということでeラーニングを実施する場合も多いです。

このような一般社員向けにLGBTの研修やeラーニングを実施する際には、基礎知識をいれてほしいという要望が常にありますが、ではそこで大切な“基礎知識”とはどういうものでしょうか?

『ダイバーシティ&インクルージョン』や、『働きやすい職場づくり』というようなことをLGBTに絡めて考えると、制度と風土の両面での取り組みが大切になります。風土を醸成するために制度が役に立ち、制度を利用しやすくするために風土が必要という関係です。

制度については、人事部や役員・管理職が検討することが一般的なので、一般社員向けの研修やeラーニングでは、風土づくりに役立つ内容ということが重要になります。

風土づくりには、差別やハラスメントをなくすということが大事です。同時にLGBTに関しては、いわゆる悪意のないハラスメントが多いので、マイクロアグレッションをなくしていくということが重要なテーマになります。

マイクロアグレッションとは、悪意のない日常の小さな差別的言動のことを言います。一つの言動で大きく傷つくというものではないために、なかなか問題となりづらいのですし、受けた側も小さなことなので最初は聞き流しやすいです。しかしそれが、日々積み重なることで、それを受ける当事者は大きく傷ついていくことにつながるケースもあります。

LGBTに関するマイクロアグレッションの例としては、次のようなものがあります。

  • 男性に対して『かっこいいのに彼女いないの?』
  • 女性に対して『Aさんとお似合いだから付き合っちゃえば』
  • 『男なのにきれい好きだね』
  • 『ガタイがよくて男らしいな!』
  • 『女性なのによく食べるね』
  • 女性初の店長として表彰する
  • 彼氏がいないことを友達が心配して合コンに誘ってあげる
  • 営業成果がでてない後輩の男性を元気づけるためにキャバクラに誘う
  • 男友達と映っている写真を見せて『ゲイじゃないけどね』
  • 名札が男女の別で赤と青の色分けがされている
  • 男性の部下は残業があるけれど、女性社員には残業がない

このような言動は明確な悪意がなく、場合によっては本人のために良かれと思ってのこともしばしばあります。人によってはこれらの言動を嬉しいと感じる人もいますが、逆に迷惑だとかストレスに感じる人もいます。つまりマイクロアグレッションとは、誰に対しても差別的な言動というわけではなく、ある人にとっては小さな痛みになるものを言います。これらを減らしていくためにはどうするのがいいでしょうか?

マイクロアグレッションの事例を一つずつ、研修やeラーニングで説明をしていくという方法もあります。ただマイクロアグレッションは小さく日常的な言動だからこそ事例は非常に多岐にわたりすべてを列挙していくことは難しいです。より効果的なのは自分のもつアンコンシャス・バイアスに気づくということです。

シスジェンダー(戸籍上の性別と自認の性別は一致)・ヘテロセクシュアル(異性愛)が当たり前という無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が、思い込みであることを気づき、それがすべてではない、異なる考えや価値観があるということを意識できるようにすることが大切です。

LGBTの基礎知識としては、LGBTの定義やLGBTの人口割合、LGBTの悩み、カミングアウトやアウティングなどの用語の説明、ハラスメントについてなどあります。これらはそれぞれ内容としては大切です。これを単なる知識としてインプットするだけにとどまらず、いかにアンコンシャス・バイアスの気づきにつなげ、マイクロアグレッションをなくしていくことに結び付けられるかが大事です。そのためには知識そのものにプラスして伝え方や話の流れなどが実はとても重要になります。