先日、電通より「LGBTQ+調査2020」というのが発表されました。これまでLGBTに関連する調査やアンケートなどいろいろな団体から発表されてきていますし、電通でも2012年、2015年、2018年と3回LGBT調査が実施されています。

今回の調査が、これらの調査と大きく異なるのは、LGBT非当事者を対象としたクラスター分析を中心に行っていることです。

LGBT当事者がどういう人か?どういうことを考えているか?悩んでいるか?という視点ではなく、LGBT非当事者がどう考え、どう行動しているか?調査の質問回答を基にLGBT非当事者を6つの層に分類し、特徴を解説しています。

企業においては、LGBT非当事者の理解を深めていくことが大切です。そのためには非当事者を分類し、それぞれのタイプにあった取り組みを考えていくのも有効です。

取り組み方法はさまざまですが、今回は、もっとも一般的な取り組みであるLGBT研修において、この6つのタイプ別にどのような知識をインプットするのが効果的かという点について考えてみます。

 

今回の調査結果では、LGBT非当事者を「知識、課題意識、配慮意識、社会影響懸念、生理的嫌悪」の5つの因子を基に、次の6タイプに分類しています。

  1. アクティブサポーター層:29.4%
    課題意識が高く積極的にサポートする姿勢がある。身近な当事者や、海外コンテンツを通して理解を深めた。
  2. 天然フレンドリー層:9.2%
    知識のスコアは引きが、課題意識や配慮意識が比較的高く、ナチュラルにオープンマインド。
  3. 知識ある他人事層:34.1%
    知識はあるが、当事者が身近にいないなど、課題感をおぼえるきっかけがない。現状維持派。
  4. 誤解流され層:16.2%
    少子化といった社会への悪影響を懸念するなど、誤解が多いため一見批判的だが、もともと人権意識はある。
  5. 敬遠回避層:5.4%
    積極的に批判はしないが、配慮意識が乏しく関わりを避ける。知識はある程度あっても、課題と感じていない。
  6. 批判アンチ層:5.7%
    生理的嫌悪、社会への影響懸念が著しく高い。人種差別や環境問題などの社会課題に対しても興味を持たない。

 

企業内においては、LGBTの働きやすい環境とはどういう環境でしょうか?

一番、大切なのは配慮した行動がとれるかどうかだと考えています。その点で、やはりアクティブサポーター層と天然フレンドリー層というのが増えていくことが基本的には望ましいと考えられます。

6タイプのうち、ボリュームゾーンである知識ある他人事層は、課題意識や配慮意識が低いという特徴があります。そしてこのタイプは、下記の表のとおり男性のうち最も多いタイプということになります。

このタイプは身近に当事者が現れれば自然に自分事として考えることも可能ですが、それをすぐに実現することは難しいです。一般的な基礎知識はあるので、次に行動のための基礎知識をインプットすることをおススメします。行動のための基礎知識とは、その知識をベースに自分が行うべき行動は何かという知識になります。そのためには取り組みを行うメリットデメリットやコンプライアンスという文脈で理解をしてもらうというのも効果的な場合があります。

 

クラスター別男女比 男性 女性
アクティブサポーター 18% 41%
天然フレンドリー 6% 13%
知識ある他人事 41% 27%
誤解流され 19% 13%
敬遠回避 7% 4%
批判アンチ 9% 2%
100% 100%

(電通調査結果を基に独自に試算)

 

誤解流され層と批判アンチ層は近い特徴があります。いずれも基礎知識が少なく、社会的な影響懸念や生理的嫌悪が高いです。生理的嫌悪については、知識をいれても、すぐには変わらないかもしれませんが、大事なことは目に見える言動を適切にできるかどうかです。職場においてはセクシュアリティ面とは関係なく、人間関係であう/あわないは必ずありますし、好きになれない人もいます。ただ仕事をする上で、自分の好き嫌いの気持ちとは別に組織の一員としてどのようにふるまうべきか、ということを基礎知識と一緒に研修やeラーニングでしっかり学ぶことが大切です。知識がないだけにしっかり知識を身に着けると、態度がガラッと変わる場合があるのも、特徴の一つです。

 

アクティブサポーター層に関しては、知識も課題意識も配慮意識もあって最高のアライのように思われます。実際に、LGBT取り組みを職場で支える軸となっている場合も多くあります。一方で懸念もあります。実際にこの調査結果の報告会でゲストとして登壇していた、杉山文野さんも熊谷東京大学准教授もこの層を肯定しつつも同時に結果的にズレた考えや行動につながった事例などを話されていました。

この層は知識があるためにアンコンシャス・バイアスを持つ可能性もあります。アンコンシャス・バイアスは全く知識も経験もなければ、存在しません。研修等でLGBT当事者の話を聞くこともアンコンシャス・バイアスを生み出すもとになります。知識をつけたり、研修で当事者の体験談などを聞くこと自体はとても大切ですし、積極的に行うべきですが、一定の知識や経験を身に着けている人ほど、自分にある思い込みの存在を意識して行動ができるように、アンコンシャス・バイアス研修をお勧めします。

 

このようにタイプによって研修等で学ぶべき知識は異なっていると考えられます。ただ希望者募集の研修ではアクティブサポーター層が多いかもしれませんが、それ以外はタイプ別に研修受講者を振り分けることは困難です。今回の調査結果を参考にして、いろいろなタイプの人がいることを前提に、研修を実施する際には、どのような基礎知識をどう伝えるのかを検討してみてはいかがでしょうか。