職場でカミングアウトをしているLGBT当事者が5%程度という調査結果があります。限られた親しい同僚にだけカミングアウトをしているというケースもありますが、上司や人事にカミングアウトをするというのはまだかなり少ない印象です。
今回、お話をお聞きしたのは、FTMトランスジェンダーのOさんです。勤務先はLGBTに関する具体的な取り組みはほぼしていないので、いわゆるLGBTフレンドリー企業ではないのですが、直属の上司にカミングアウトをしたそうです。その結果、どんなことになったかを教えてもらいました。
私は現在、社会人2年目です。不動産の営業職をやっています。私は戸籍は女性ですが、性自認は男性なので、FTMトランスジェンダーになります。ただFTMトランスジェンダーといってもまだクリニックに通い始めたばかりで、何も治療はしていません。
就活の際には、シスジェンダーの女性と同じように、女性として就活をしていました。就活をはじめる際には、まだ自分の性自認は自分でも自信がなく、ただレディーススーツとかメイクにはかなり抵抗を感じていました。説明会や面接などでも女性として扱われるので、そんなところも引っかかってはいましたが、選考の場で自分のセクシュアリティに関しては一切カミングアウトはしなかったです。
今の会社でも職場では最初はカミングアウトをせずに働いていたのですが、徐々に髪を短くして、服もスカートは絶対はかないですし、メイクも薄くして今はノーメイクです。半年くらい前に、上司と面談をする機会があったときに、「ボーイッシュな格好が好きなの?」と聞かれたので、「実は、トランスジェンダーだと思っています」と初めてカミングアウトしました。上司は、意外にあまり驚かず、話を聞いてくれました。そして「トランスジェンダーの人に会ったのは初めてだからわからないこともいろいろあるけど、何か働く上で困ることがあったら何でも相談して。すぐにできないこともあるかもしれないけど」と言ってくれました。すぐに何かしてほしいということはなかったのですが、ふんわりと受け止めてもらえたのは良かったです。あとから聞いたら、うちの会社でも今年からLGBT研修が始まり、上司も管理職向けの研修を受けたばかりだったそうです。
会社としての取り組みはまだまだなので、今後性別移行とかしていくときには不安もたくさんあるのですが、今の上司にはとりあえず相談はできそうなので、その点では働きやすい職場だと思っています。
LGBTフレンドリーな企業と、LGBTフレンドリーな職場は近いですけれど、違います。企業として研修やeラーニングといった教育をしたり、パードナーシップ制度などの福利厚生を整えていることと、実際の職場の人の接し方は必ずしも一致しないです。ただOさんの上司のように、LGBT研修を受けたことも一つのきっかけとして、Oさんのカミングアウトをフツーに受け止められたというようなケースもあります。LGBTフレンドリーな職場づくりは一朝一夕には進まないかもしれませんが、企業としての取り組みを進めていくことで、職場の風土も少しずつ変わってくるという事例でした。
性別移行の際には、いろんな理由から転職を余儀なくされるトランスジェンダーの人も多くいますが、Oさんはこの企業で働きながら移行をしていきたい、と話してくれました。