『パパだけど、ママになりました ~女性として生きることを決めた「パパ」が、「ママ」として贈る最愛のわが子への手紙~』

日本テレビの映画プロデューサーでトランスジェンダー女性の谷生俊美が、自分の人生を振り返りながら、自分の愛娘に「ママ」として大切な考えを手紙形式でつづっています。

タイトルの通りトランスジェンダー女性が子供をもつというのが大きなテーマではありますが、本書では、谷生さん自身の仕事やプライベートでの多くの努力とその結果、自分らしく生きてきたという話がとても“カッコよく”描写されており、性別や性自認とは別の世界で、読みごたえがあり、おススメです。

書籍概要

最愛のわが娘・もも、あなたは明らかに友だちとは違う形の家族をもっています。
その原因をつくったママはやっぱり心配になります。ママという存在のせいで、嫌な思いをしたり、学校でいじめられたり、悩んだりさせてしまうこともあるのでは、と。
だからこそ、私はきちんと話しておかなければいけないと考えました。
ママは、どうして男性として生まれながら、「女性」として生きようと決断したのか。
この本は、多感な思春期の入り口、将来12歳になったももへの手紙として書きました。
(はじめにより)

目次

第1章:「ママ」がまだ男の子だった頃のお話
第2章:「ママ」がまだ男性で、東京に来て頑張っていた20代の頃のお話
第3章:「ママ」がまだ男性だけど、自由に生きていいんじゃないかと気づいた中東派遣員の頃のお話
第4章:「ママ」がついに、女性として生きていこうと決めたころのお話
第5章:「ママ」が「かーちゃん」と出会って、結婚する頃のお話
第6章:「パパ」だけど、ついに「ママ」になりました

印象的なコンテンツ

『趣味悪い!あれ、そのコート、レディース?どうしたの!?なんか目覚めちゃったの(笑)?』
『こいつと谷生と、どっちがキモイと思う?』
『けっこう昔と印象違うんだけど、お前、これからどこに向かいたいの~?』(P186)

中東地域での5年間の海外赴任を終えて、本社に戻った時の、周囲の反応です。
赴任前の谷生さんと、赴任中に徐々に女性化していった谷生さんとの違いに、周囲は戸惑い心無い言葉を投げかけます。時は2010年、谷生さんが36歳のときです。
このような、レッテル貼りをする人や、嘲笑の対象にする人も多くいたのですが、一方で、昔と変わらずに接してくれる先輩・仲間もいました。
『トランスしたい』と会社に相談したときに最悪、クビになることも想定して、少しでもリスクを減らすために、性同一性障害の診断を受けるべく通院も開始します。

『谷生ちゃんは中性的というかフェミニンな男性、といういまのスタイルが完成形かと思っていたんだよね。でも、そうじゃないんだね。女子なんじゃない!だったらもっとそうアピールしていいと思う』(P229)

入社時から信頼していた元人事部の先輩の言葉に後押しされ、『振り切れ』なかった自分を変えて、完全なる女性装での仕事を決意します。
同時に、社内での手続き、根回しなどのアドバイスをもらい、職場での理解を得ることができるようになりました。

『私はこの人と付き合っているけれど、レズビアンになるのだろうか』(P257)

谷生さんのパートナーの“かーちゃん”の悩みです。性自認や性的指向について悩んだことがない人でも、LGBTの人とお付き合いをすることで自分のセクシュアリティについて思い悩むことはよくあります。
“かーちゃん”はいろんな本やブログを読んで、悩んで、最終的に『私は、谷生さんという人間が好きなんだ』という境地に達します。

感じたこと

警視庁の事件記者時代に“おっさん化”する話や、中東特派員時代に感じた人の生死や喜びに関する話、不妊治療(顕微授精)により自分の子どもを授かる話など、興味深い話がたくさんでてきます。
谷生さん自身がインタビューで『幸せなトランスジェンダーの物語もあるよ』ということを伝えたかったというとおり、苦労話はあるものの、全体的にポジティブで、読後に爽やかで温かい気持ちになる本です。