企業のLGBTの取り組みの中でも、応募時の履歴書やES(エントリーシート)の性別欄の見直しは、比較的多くの企業で実施されています。
この対応は、人事部が中心にできること、また時間やコストもそれほどかからないという点で取り組みやすい項目となっています。

この取り組みによって応募しやすくなったという求職者も多くいます。
一方で、性別欄の見直しをしても、就職活動で困るという当事者も少なからずいます。
今回は、FTM(トランスジェンダー男性)のNさんが実際に感じたことをご紹介します。

私は今年の4月から社会人になりました。就職活動は3年生のインターンシップから内定まで1年くらい続けていました。

まず私の状態についてお話します。私は戸籍は女性で性自認は男性のトランス男性です。
小さいころから、“女性”ということにはとても違和感がありました。男の子と一緒に外遊びをしたり、男の子のおもちゃで遊んだりしていました。
中高生のときは女子高だったのですが、スカートは嫌でずっとジャージで通していました。
大学1年のときには、ジェンダークリニックに通うようになり、トランスジェンダーという診断も受け、ホルモン治療も開始しました。
そんな状態だったので、大学でも、何も言わないと男子だと思われることもよくありました。

就職活動が始まって、女子のリクルートスーツを着るのは抵抗がありました。スカートは絶対に無理だったので、体型はあまりあわなかったのですが、小さいサイズの男子用のスーツを買うことにしました(お店で男性用の売り場に行くのは勇気が要りましたが)。

履歴書の性別欄に関しては、私が受けた企業では、男女の2択が一番多かったですが、性別欄がないという企業もかなり多かったです。その他という選択肢があったところもあります。

就活を始めた最初は、男女2択の性別欄の場合は、戸籍が女性なので男性には印は付けられないので、気持ち的に嫌だったという思いはあります。
“その他”というのも回答しにくく、性別欄がないというのが一番、何も気にしなくていいので楽でした。

ただ性別欄のないエントリーシートで応募した企業で面接にすすんだときに、面接官が明らかに戸惑った感じがでていました。
書類上の性別が不明で、名前はやや女性っぽいけれど男性にもいなくはない、見た目は男性にしては小柄だけど、服装(スーツにネクタイ)や髪形などは男性っぽいので戸惑うのも分かる気はします。
結局、そのときは性別はとても気になっているように見えたけれど、何も触れることはなかったです。
二次面接では若い面接官のほかに人事部長もいて、そこで初めて性別を質問されました。
たぶん、トランスジェンダーだと分かったんだと思います。
人事部長はかなり言葉を選びながら、説明をしてくれましたが、結局、前例がなく受け入れが難しいということを遠回しにいわれました。

いま、働いている会社は性別欄が男女のみの会社です。
履歴書段階では性別欄に〇を書くのは嫌でしたが、面接時には自分からトランスジェンダーであることをカミングアウトして、入社前にしっかり働き方を相談することができました。

履歴書の性別欄に関して私が個人的に思うことは、性別欄がない方がとりあえず楽ではあるけれど、働く上ではそれ以外に男女を問われる場面はたくさんあるので、結局、性別欄の有無だけの問題ではないということです。

履歴書の性別欄の話は、結局はカミングアウトの話に密接に関連します。
カミングアウトの強要はハラスメントに該当する場合もあり厳に注意が必要ですが、一方で自認の性別でどのような働き方が具体的に可能か、について求職者と企業がちゃんと情報共有をするためには、カミングアウトが必要な場合も多いです。

履歴書の性別欄は取り組みがしやすいのですが、それだけではなく、周辺の取り組みを同時にすすめていくことが大切になります。