LGBTの当事者の中には、通称名の使用を希望するケースがあります。
ゲイやレズビアンの当事者がパートナーと同じ“姓”を通称として使用したいという場合もありますが、トランスジェンダーの当事者が自認の性別にあった“名”を通称として使用したいというケースが一般的です。

職場での通称名の使用に関しては、一般的には、結婚した場合の旧姓使用を中心にビジネスネームを認めているケースが多くあります。
どちらも戸籍上の本名ではないという点では同じなので、トランスジェンダーの通称名の使用をビジネスネーム使用の枠組みで対応するケースもあります。

しかし、ビジネスネームとトランスジェンダーの通称名(以下、本稿では「通称名」と記します)ではいくつか大きな違いがあります。
今回は、トランスジェンダーの通称名の使用に関して考えてみます。

ビジネスネームと通称名の違いとしては、

  1. ビジネスネームは一般的に“姓”の通称であるが、通称名は“名”である
    企業が対応するうえで一番問題になりやすいのが、システム上の対応です。姓については、戸籍の姓とは別に入力可能だが、名に関しては入力が不可能な仕様になっているケースが多くあります。
  2. 通称名はビジネス上だけでなく、プライベートでも使用することが多い
    旧姓使用の場合は、ビジネス上は旧姓を使用しつつ、プライベートでは戸籍上の氏名を使用するケースが多いかと思います。つまり旧姓も戸籍上の名前も自分の名前として認識している状態です。
    一方で通称名の場合は、戸籍上の名前が嫌で通称名を使うケースが一般的ですし、通称名の使用期間を経たうえで戸籍上の名前の変更まで進むケースも多くあります。
    そのためビジネス・プライベートとも通称名を使用したいというケースが一般的です。
    名前というのは、個人を識別するアイデンティティの重要な要素と言われています。通称名も当事者にとってはアイデンティティの重要な要素と言えます。
    具体的にどんな場面でビジネスネームor通称名が使えるようにするかを検討するうえで、この根底に流れる想いの違いを念頭に置いておくことは重要です。
  3. 通称名の使用の場合は、戸籍名を隠しておきたいケースも多い
    仕事上でカミングアウトをせずに自認の性別で働く場合には、カミングアウト(アウティング)につながるので、できるだけ戸籍名を隠しておきたいというのが一般的です。
    戸籍名の記載や表示が法的に求められるようなやむを得ない場面はあるのですが、それ以外はできるだけ戸籍名が露出しないような配慮が大事になります。
    また戸籍名をどの場面で誰が見るかということを、通称名使用希望者に対して事前に説明しておくことが望ましいです。
  4. 通称名は自分で決める
    旧姓の場合は戸籍謄本で確認をすることが可能です。
    一方で通称名は基本的に自分で決めるものであり、また届け出などもないので、通称名が確定していなということもしばしばあります。
    場合によっては使用していた通称名を変えたいというようなこともあります。

通称名に関してはこのようにビジネスネームと大きく違う点があります。
また働く上で全ての書類で通称名が使用できるということはなく限定された範囲での使用になることが多いのですが、トランスジェンダー当事者としては、すべて通称名が使えるのではないかという大きな期待をすることも多いです。

通称名の使用を考える際には、通称名の使用範囲を拡大することは大切ですが、それと同時に可能か不可能かではなくて、何がどこまで対応できるかを整理して、伝えていくことも重要になります。