パリオリンピックが開催され、LGBTとスポーツの関係について注目が集まっています。
改めてLGBTとスポーツの関係や、課題について考えてみます。

オリンピックにおいては、主に2つの視点が議論になっています。
一つ目が、競技の公平性です。
トランス女性は、シスジェンダーの女性より骨格や筋肉量などの面で有利であり、同じように出場し、記録や順位を同列に比較・争うのは公平ではないという主張があります。

IOC(国際オリンピック委員会)の規定では、これまでは過去1年間、テストステロン(男性ホルモン)の値が一定値以下であることを主な条件としていましたが、2024年1月に改訂され、『12歳になる前に性転換を完了した選手に限る』という基準が新たに設けられました。さらに各競技組織がより厳しい出場資格を設けている場合もあります。

トランス男性の場合は、男子種目に出場した場合にシスジェンダー男性より有利な記録が出るということはあまりないので、オリンピックの出場に関しても議論になることはほぼありません。

競技の公平性に関しては、スポーツルールの根幹であり、性自認に限らずいろいろな側面からの検討が必要です。
どこを公平と見るのかは、世界中で議論が続いているのが現状です。

二つ目が、競技の安全性です。
ボディコンタクトがあるスポーツ(ラグビーやボクシングなど)においては、勝敗や記録とは別に、選手の安全性という観点から規制が必要だという主張もあります。

LGBTが抱えるスポーツの問題は、このようにオリンピックや世界大会など記録や順位が人生においても非常に重要になる場面だけでなく、より一般的な学校でのスポーツや趣味レベルのスポーツまで広範にわたります。

スポーツはそもそも厳格に男女で区別される場面が非常に多いです。
まず種目についても、中学校の体育においては2021年度から男女共習が実施され、男女の区別は小さくなりつつありますが、1989年まで学習指導要領において男女別で種目などの区別が明確にあり、その後も、男女別習というのが現場では続いてきています。
そのため、特定のスポーツはそもそも始めるきっかけや参加する機会が非常に限定されているという現状があります。

また男女共習という授業スタイルに変更になったとしても、学校内外のクラブ活動や大会は男女別が一般的です。
より具体的には、競技自体の参加のほかに、ユニフォーム、更衣室、合宿遠征などの宿泊など男女別となるシーンがたくさんあります。
そのためトランスジェンダーにとっては、学校の部活や趣味でスポーツをするだけでも、さまざまな場面で障害があります。
これらはオリンピックでのトランスジェンダー参加資格の問題ほどメディアなどで注目されませんが、人々の日常生活に直接関係しているという点で考えると、より広範かつ重要な課題とも言えます。

またトランスジェンダーだけでなく、ホモフォビア(同性愛嫌悪)という問題もあります。
オリンピック競泳で5つの金メダルを獲得したオーストラリアのイアン・ソープ氏は『オーストラリアがゲイのチャンピオンを望むかどうか、不安に思う自分がいた』と現役引退後にゲイであることをカミングアウトした際に過去を振り返って語っています。
ホモフォビアはスポーツの世界に限るものではありませんが、隠し事をせざるを得ないという状況の場合、ベストパフォーマンスを発揮できないことにもつながります。

企業においては、スポーツに関して事業で直接関係していなくても、自社内の運動系部活動や実業団チーム、あるいはスポーツ振興の協賛などさまざまな場面でスポーツに関係することがあるかと思います。
LGBT当事者がスポーツする際に抱えている課題を認識して、どのようなことが企業としてできるかを考えてみることも大切かと思います。