トランスジェンダーのスポーツの参加については、今はルールの整備段階なため、実際のプレイヤーとしては困る場面がたくさんあります。

今回は大学時代に、アスリートとして活躍していたトランス男性のAさんがどのようにスポーツに取り組み、またその後、どのように就活をしたかについてご紹介します。

私は今29歳です。身長が164㎝なので少し小柄な男性とみられます。

私は生まれたときは女性として生まれ、今でも戸籍は女性です。
でも私の性自認は男性で、表現したい性別も男性です。今の職場でも男性としてメンズスーツを着用し、男性用トイレを利用しています。
生まれたときの身体の性別が女性で、性自認が男性なので、FTM(Female To Male)のトランスジェンダーということになります。

私は三人兄弟の末っ子で、兄が二人います。
その影響かわかりませんが、小さいときから男の子と遊ぶことが多かったそうです。
お人形やおままごとをするのではなく、外で走り回ったり、あとは電車とかも好きだったそうです。

自分でも覚えているのは、かわいいフリフリしたような洋服を着せられるのは本当に嫌だったということです。
かなり嫌がっていたのですが、周囲の人は、単にボーイッシュな女の子とみていたみたいです。

身体を動かすことが好きで、中学・高校と女子バスケ部に所属して、毎日ハードな練習をしていました。

そのまま、大学もスポーツ推薦で体育大学に入学しました。バスケは本当に好きで、ずっとやっていきたいという思いがあったのですが、同時に自分自身の身体に対する違和感も強くありました。
高校生のときには、自分は性同一性障害だという自認がはっきりありました。大学に入ってからはジェンダークリニックに通い、性同一性障害の診断も受けていました。

本当は、すぐにでもホルモン治療に入りたかったのですが、ここで問題になったのがバスケです。
ホルモン治療をした場合に、バスケ選手として試合に出られるのか?出るとしたら女子選手か?男子選手か?
身長や体格、体力など総合的に見て男子選手では大会で選手として選ばれないことは明らかでしたし、そもそもまだ何も治療をしていない段階で男子選手として扱ってもらえるとは思いませんでした。
女子選手として考えた場合には、ホルモン治療を開始すると筋力がつきやすくなるなど変化が現れるので、そのまま試合にでるわけにはいきませんでした。

結局、大学の4年生の夏の大会まで、治療への希望は心の奥に押し込めてバスケに専念しました。
その頃、周りの友達はバスケをやりながらも着々と就活も進めていました。
私は、就職してレディーススーツを着るとかは考えられなかったのもあり、その時は就活が全くできませんでした。

結局、バスケを引退してからすぐにホルモン治療を開始し、4年では卒業をせずに留年をして、その間にホルモン治療と性別適合手術を受けました。
性別移行に時間がかかったこともあり、留年は2年にわたりました。その間に外見が男性っぽくなるとともに、男性として就活に臨みました。
見た目は男性で、戸籍は女性なので、就活ではトランスジェンダーであることのカミングアウトは必須でしたが、見た目がかなり男性っぽくなっていたのもあり、どの会社も比較的、受け入れてくれた印象です。

今は職場の周りの人は、基本的に私のことを男性と思っています。特にカミングアウトも必要ないですし、周りの視線も感じないので働きやすいです。

スポーツにおいて競技の公平性という観点からは、トランス女性の競技参加が問題になるケースが多いです。

一方で、スポーツが好きというトランス男性もたくさんいますが、Aさんのお話のようにトランス男性にも別の、スポーツしにくさがあります。
Aさんは2年間の留年についても、就活では理由を正直に話して理解を得られたそうですが、やはり説明しにくいとか、説明しても理解が得られないケースもたくさんあります。
トランスジェンダーの中にはこのような事情もあり得ます。

Aさんは今は働きやすい環境にありますが、「私にはスポーツがあったために、ホルモン治療を始められずに、結果として就職が2年遅れたのは、仕方なかったとはいえ、モヤモヤが残ります」とおっしゃっていました。