先日ある企業の人事の方から「就活生からカミングアウトがあったのですが、どのセクシュアリティなのかはっきりわからないのですが。。。」というご相談をいただきました。
また研修をしていると参加者から「性的指向や性自認は生まれつきなのですか?」「性的指向や性自認が変わることはあるのですか?」というような質問を受けることがしばしばあります。
LGBT当事者にあまり会ったことがないという場合に多いのが、当事者の人はLGBTQ+のどのセクシュアリティであるかがはっきりしていると考えがちですが、実際は、必ずしも明確でない人も少なからずいます。
今回は、就活を機に自分のセクシュアリティについての変遷を考えてみたというMさんの体験談をご紹介します。
私は今、21歳です。戸籍は女性です。
私が自分のセクシュアリティについて、他の人とは違うかもしれないと初めて思ったのは中学3年生のときに同級生の女子を好きだと感じたときです。
それまでは、当たり前のように男子を恋愛対象として考えていて、実際に良いなと思う男子も何人かいました。女子の友達とも、男性アイドルも含めて誰が好き!みたいな話はしていました。同級生の女子を好きになったときは、自分でもきっかけとかは分からないのですが、気づいたら、その子のことを目で追っている自分がいた、という感じです。
自分でも女子も好きになることにちょっと驚きはありました。これまでの経験も踏まえると自分はバイセクシュアルなのかなとぼんやりと思った記憶があります。
このときは中学校の卒業もあって、告白もしなかったし、周りの友達も気づかなかったと思います。その後、高校生以降は、好きになるのはいつも女子ばかりです。
男性芸能人とか見ると格好いいとは思いますが、身の回りにいる男子にときめくみたいな感じはないですね。
高校時代は何人かお付き合いしましたが、全て女子だったので、バイセクシュアルというよりレズビアンなのかとも思っていました。大学生になって、FTMトランスジェンダーの方の話を聞く機会があり、自分もトランスかもしれないとも思いました。
私はメンズの服装をしてメイクとかもほとんどしません。あんまり女らしさを求められるとちょっと辛いとも思います。一方で、トイレや更衣室は女性用を使うことに全く違和感もないですし、自分の身体への違和感もありません。
ここまでいろいろお話をしたのですが、実は、あんまり自分のセクシュアリティについて考えたり悩んだことはなかったのが本当のところです。
他の人とはちょっと違うというのは感じてはいたものの、別に困ることもなかったし、それほど突き詰めて考えようとしなかったという感じです。今回、就活をする際に、企業分析と業界分析とかと一緒に、自己分析をするようにと求められました。
また働く際にはレディススーツやメイクなど女性らしさを求められるということもあって、初めて自分のセクシュアリティと正面から向き合って、過去をさかのぼって考えてみました。自分の性的指向と性自認について、いろいろ真剣に考えてもみましたが、結局、いまのところはレズビアン寄りのクエスチョニングというのが自分の中ではしっくりきている感じです。
シスジェンダー&ヘテロセクシュアルというマジョリティの多くが自分の性的指向や性自認について、あまり考えたことがないというのと同様に、LGBT当事者の中にも自分のセクシュアリティについてあんまり考えたり悩んだりしたことがなく自然に受け入れているという人もいます。
Mさんのようなケースも含めて、必ずしもセクシュアリティの境界線は明確でなく、また自認も流動的なケースもあります。
一方で、就活を入り口とした職場や社会人では、性的指向や性自認について男女の区別が明確に求められる場面が多いという現実があり、就活生になって初めて戸惑うというケースも少なからずあります。
LGBTを理解するとは各セクシュアリティの定義を明確にすることや相手のセクシュアリティを定義づけすることではないということも大切にしたいですね。