『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』

性社会文化史研究者で、明治大学文学部非常勤講師でもある三橋順子さんが書かれて2023年12月に出版された一冊です。
三橋さんは、10年以上にわたり大学でジェンダー論の講義を続けており、本書は都留文科大学、明治大学、早稲田大学などでの実際の講義内容を元にまとめたものです。

大学の講義として客観・中立的であり、学生にもわかりやすい語り口調、さらにご自身のトランス女性という体験がバックグラウンドにあるため、とても興味深く&読みやすく、ジェンダーやセクシュアリティということが概括的に理解しやすいです。
「4年間の大学生活でいちばんためになった講義」という感想を学生からもらったこともあるそうです。

職場ですぐに活用するというよりも、ジェンダーやセクシュアリティについてより深い理解をしたいという方にお勧めです。

書籍概要

目次
第1講 「性」を考えることの意味
第2講 ジェンダーを考える
第3講 セクシュアリティを考える
第4講 「性」の4要素論
第5講 「性」の多層構造論
第6講 「性」の多様性論
第7講 日本初のトランスジェンダーの大学教員として

伝えたいのは「違いがあってもいいんだよ」――
本書は、2012年の開始以来、毎年300人以上の学生が受講する明治大学文学部の『ジェンダー論』の講義録を基に執筆されたジェンダー&セクシュアリティ論の入門書です。
自らの「性」と社会的な「性」のしくみについて真剣に考え、多様な「性の有り様」を知ることは、もはや、すべての人々にとって避けて通ることのできない今日的な課題と思われます。
LGBTQ+、同性婚、トランスジェンダー、ジェンダー・アイデンティティ…といった最近よく耳にする言葉についても分かりやすく解説していき、さらに性的マイノリティとして社会を生き抜いてきた著者が、実際に体験してきたこと、考えてきたことも多く反映された一冊となっています。

印象的なコンテンツ

『一般的に男性ホルモンの影響は強烈かつ不可逆的』『トランス男性の場合、男性ホルモンの投与を止めると、低くなった声や髭・体毛はかわりませんが、月経は回復します。妊娠・出産も可能です』(P120)
トランスジェンダーといってもトランス男性とトランス女性では様々な点で異なります。ホルモン治療による変化しやすさも不可逆性も大きく異なるということが具体的な例を多数挙げながら説明をしています。

『私の基本的な考え方は、“社会における性別認識は、性自認と性他認の複雑な関係で成り立っている”“ジェンダー・アイデンティティはその人にとってとても重要であり、尊重されるべきものではあるが社会的には絶対ではない”』(P137)
性他認という著者の造語が出てきます。これは性別認識は他者によって与えられる部分があるという考えです。
視覚情報(見た目)を無視して、性自認を主張することは性自認の押し付けになりかねないとしています。

『LGBTという言葉がもつ問題点』(P179)
問題点は3つあると主張しています。一つ目が性的指向とジェンダー表現という違う問題であるはずのLGBとTの違いが曖昧になり混乱することです。
二つ目が、LGBT以外のマイノリティ(AやQやPなど)が可視化されにくくなります。
三つ目が婉曲的な言い換えという言葉で、「LGBT男性(or女性)」というような誤用の表現が多用されることで、ゲイやレズビアンという表現を当事者がしにくくなるという問題があります。

感じたこと

講義(本文)自体もとても興味深いのですが、各講義の最後に、学生からの質疑応答が収録されており、こちらもなかなか興味深いです。

・カミングアウトされたときのリアクションとしてベストなものを教えてください
・言われて嫌な言葉を教えてください
・フェミニズムって何ですか?
・ポリアモリーはどう位置付けたらいいのでしょうか?
・同性愛や性別違和の原因に遺伝子は関与しているのでしょうか?
・日本でトランス男性が多い理由として何が考えられますか?
・バイセクシュアルの運動はなぜ盛り上がらないのでしょうか?
・トランス女性が競技スポーツで女性として出場することについてどう思います?

など、素朴な質問がさまざまな角度から飛んできて、著者は自身の体験も踏まえて答えています。
ぜひ、本書を開いて回答を読んでみてください。

本書は、大学の講義がベースになっているためというのもあり、LGBTというテーマについてさまざまな視点からの考えを否定することなく丁寧に説明をしています。

LGBTのテーマについて関心があって、応援したい!と思っている人だけでなく、関心があるけれど今の社会の急速な変化には反対だ!という両方の人におススメです。