Nijiリクルーティングでは有料職業紹介という形でLGBT当事者を中心に就活・転職のサポートをしています。
そのため日々、採用活動中の企業と直接お話をしています。

お話をする中で、偏見や先入観あるいは知識の少なさを原因とした、差別的な発言や誤解を耳にする機会も多いです。
今回は、実際に中小企業の採用担当者から聞いた、LGBTの採用に関する事例をご紹介します。

事例(A社)

『うちは、トイレは男女別になっていて、誰でもトイレってないから、LGBの人はいいけれど、トランスジェンダーの人は難しいですね。そのまま戸籍のトイレを使用するということなら大丈夫ですけど』
これは社員数30名ほどのIT企業のSE職採用に関しての話です。

LGBTというとトイレの話が真っ先に話題になりますが、まずトイレの課題は一般的には、ゲイやレズビアンにはあまり関係なく、トランスジェンダーに特徴的な話になります。
またトランスジェンダーであってもその人の性別移行の状態や働き方によって、トイレの使い方の希望はことなるので、男女別のトイレしかない職場だからといって即、働けないということはないのですが、トランスジェンダー=トイレ問題という先入観からNGという発言です。

事例(B社)

『仕事内容は法人営業です。社員の男女比は半々ですし、別に性別は問わないです。ただスーツ着用は必須なので、そこが難しい場合には採用が厳しいですね』
オフィス向け備品の営業職を募集していました。
これは狭く解釈すればLGBTという理由で採用NGとしているわけではありませんが、性別移行中のトランスジェンダーや、男女のどちらかに分類されたくないと考えるノンバイナリー(Xジェンダー)の中には、男女の区別が明確に分かれる制服は着用が難しいという人も多くいるので、実質的にこのような人が排除されるルールと言えます。

事例(C社)

『私はLGBTの知り合いもたくさんいるし、偏見も差別もないです。トランスジェンダーの人も全く問題ないので、いい人がいれば採用しますよ。ただゲイの方だけは難しいかな。うちは男性社員がほとんどだから、職場恋愛とかがこじれて問題になると困るんで』
これは前職は大手建設会社で人事部長をしたあとC社を起業した社長の言葉です。
恋愛などプライベートの問題が仕事に影響するのは困るというのは確かですが、それをゲイに限定するのは差別的と考えられます。

事例(D社)

『うちはLGBTの中でもトランス女性を採用したいんです。前にいたトランス女性のかたがすごく気が利く方で、あとは男女どちらの気持ちもわかるからか、コミュ力もとても高かったので、ぜひ、トランス女性を採用したいと考えています』
こちらの企業では、社長秘書としてトランス女性を採用したいという話でした。
トランス女性といっても、全員が気が利くわけでもないですし、コミュ力が高いわけでもありません。
人それぞれ性格も適性も異なるのは当然なのですが、一つの事例だけでトランス女性像を作り上げているという点で、これも偏見・先入観と言えます。

このような事例は、厚労省の出している『公正な採用選考』という考え方から逸脱しており、差別的取り扱いとなりそうなケースも見受けられます。
今回、ご紹介した企業はいずれも中小企業なので、コンプライアンス意識が低い面があることは否めず、まただからこそ、担当者の本音がでているのだとも感じます。

一方で、中小企業でもLGBTにも理解があり、適切な採用をしている企業もたくさんあります。今回あげたような話は“中小企業だから”とか“コンプラ意識が低いから”というように極端な事例として捉えるのではなく、今の日本社会ではあちこちである話ではないかと感じています。
実際に上場企業や大企業の人事担当者でこのような発言をする人は少ないですが、組織規模が大きいからこそ、現場ではこのような考えや発言をする人は少なからずいると思われます。

誤解や偏見をなくしLGBTだけでなくすべての人が働きやすい職場にしていくために、基礎的な知識の習得に努めるとともに、差別も含めた意識を変えていくことが大切になります。