LGBTとはセクシュアルマイノリティの総称です。LGBTにはさまざまなセクシュアリティが含まれますが、それぞれ悩みや希望など大きく異なります。
そんな中で、比較的どのセクシュアリティにも共通するのが、自分のセクシュアリティを隠したいと考えている人が多いということです。
もちろん、オープンにして暮らしている人も少なくないですが、家族、友人、会社の同僚にも全くor限定的なカミングアウトしかしていないというのが多くのLGBT当事者の実情です。
大前提として、カミングアウトをするかしないかは、本人の自由な意思によるというのは当たり前ですが、カミングアウトをした場合に、周囲の理解がないために差別的な言動も含めて不利益を被ることが懸念され、また、それを理由に、SOGI(性的指向と性自認)については隠したいと考えるのはどのセクシュアリティにも共通してありえます。
このセクシュアリティ情報のアウティング(第三者への暴露)は、パワハラに該当する可能性もあるので、企業としては、この情報管理は重要な課題になります。
今回はこの個人情報の企業における管理について考えてみます。
まずLGBTに関して対象となる個人情報にはどのようなものがあるでしょうか?
名前や住所など一般的なものとは別にセクシュアリティに関連する部分としては、SOGI(性的指向と性自認)があげられます。
また戸籍上の性別も、自認の性別で社会に埋没しているトランスジェンダーにとっては、オープンにしたくない個人情報に該当する可能性があります。
戸籍上の性別変更をしたトランスジェンダーは、変更前の戸籍性というのも該当します。
また性表現についても、場合によっては情報管理が求められる可能性があります。
ここでは、簡便的にSOGIに関する情報とまとめておきます。
SOGIに関する情報は、パワハラ防止法では『機微な個人情報』とされ、病歴や不妊治療などの情報と同様に、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露すること(アウティング)をパワハラに該当する可能性があるとして、その取扱いには十分留意することとされています。
また個人情報保護法には、『要配慮個人情報』という言葉があり、これには人種、信条、病歴、犯罪経歴などが該当し、その取り扱いについては特別な配慮が必要とされています※性的指向・性自認というのは明記されていません。
この機微な個人情報と、要配慮個人情報は用語は異なりますが、いずれにしても通常の個人情報以上に、取り扱いには配慮が求められるという意味でほぼ同じと考えてよいと思います。
要配慮個人情報の場合には、まず大原則として、必要がない限り情報を取得しない&取得する場合には必ず本人の同意を得るということがあります。
それでは企業にとって、従業員のSOGI情報を取得する必要がある場面はどういうものがあるでしょうか?
- 社内のパートナーシップ制度(福利厚生)適用のため
- 同性愛が犯罪とされる国への出張などを管理配慮するため
- 申し出のあったトランスジェンダー社員に対して、設備や服装、健康診断、宿泊など個別の対応をするため
- トランスジェンダーを中心に通称名の使用を認めるため
- コミュニティの運営をするため
このような状況が考えられます。
これらの個人情報の保管保存に関しては、システム的に大きく3つの方法が考えられます。
一つ目は、既存のシステムに載せる方法です。
これは既存のシステムの利用なので運用しやすいというメリットがあります。パートナーシップ制度などでは、既存の配偶者情報の中に同性パートナーも入力できるようにするケースは多くあります。
一方で、既存システムにそのまま載せることで情報漏洩(アウティング)のリスクが高まります。
また該当する情報(同性愛であることや、性自認の状況など)の中にはシステム的には管理が想定されておらず入力できない項目も少なくないです。
二つ目は、SOGIの情報だけ特別な管理をする方法があります。
人事ダイバーシティなどの担当部署がエクセルなどのファイルで個別管理をする方法です。
この方法は、運用が柔軟にできるため情報の共有範囲を都度、変更することも可能ですし、必要な項目に絞って情報の保管保存が可能です。
しかし、システム面だけでなく運用ルールが明確でないため、担当者の属人性に依拠することになり、担当者が忘れたりミスをしたり、あるいは担当者が異動になった場合に同一の対応ができないという問題があります。
三つ目はそもそもSOGIに関する情報を保管保存しないという方法があります。
保管保存をしないので、アウティングのリスクが低いというのが最大のメリットです。
ただし、全く情報を保管保存しないという形で運用できるケースは稀というのが大きな問題です。
例えば福利厚生制度として、同性パートナーに定期的に手当てなどを支給したり、休暇が付与されたりする場合には、毎回本人に申請をしてもらうというのは現実的ではないです。
またここまで考えた情報管理は、会社(人事)としての情報管理方法になります。
会社としてとは別に、現場での情報管理も実務的には必要になります。
現場でトランスジェンダーが自認の性別の働き方をしたいという場合には、その方がトランスジェンダーであり個別の対応(トイレや更衣室、通称名など)が必要という情報を管理することが、現場の管理者には求められます。
実際には、多くの企業はこれらの方法をミックスして情報管理(保管保存)をしています。
一部の情報を既存のシステムに載せ、一部の情報は人事担当者と現場管理者だけが属人的に把握しているというような形です。
大企業であっても、何かしらの対応を求めて人事部や上司にカミングアウトをして働いている人はごく僅かです。
そのためシステムの大幅な改修や厳格な運用ルールを定めなくても大きな問題が起きていないというケースが多いです。
逆に言えば、厳格な運用ルールを定めにくいというのもあるかと思います。
多くの人が協同する組織においては、一定の範囲内での情報共有は不可欠であるため、情報管理方法を自社の状況にあわせて見直しをしていくとともに、アウティングにならないように、自社の情報管理方法(状況)を、適切に従業員(LGBT当事者)に伝えていくことが大事です。
そのためにもまずは自社の情報管理方法を把握・整理することが大切になります。