同性パートナーシップ制度はこの数年で自治体・企業の両方で導入が急速に進んでいます。
同性パートナーシップ制度の利用対象者は、ゲイやレズビアンといった同性愛者をイメージするケースが多いですが、トランスジェンダーも対象者となるケースもあります。
今回は、職場の同性パートナーシップ制度の利用を検討した結果、結局利用せず、別の形で福利厚生制度を利用しているSさんのお話です。
私は現在33歳です。生まれたときの戸籍性は女性です。小さいころは自分の性別について悩んだという思い出は特にないですが、女の子よりも男の子と遊ぶことのほうが多かったです。
自分の性別に違和感はあまりなかったのですが、中学のときに同級生の女子を好きになり、自分はレズビアンかもしれないと思ったのは覚えています。
それ以降も好きになる人はみんな女性で、男性を好きになったことはありません。
中学高校は女子校で、大学は共学だったのですが、大学時代にセクマイ(※)サークルにちょっと所属していて、そこでFTMの人と初めて話をして、自分はレズビアンではなく、男性として女性を好きなのかもしれない、トランスジェンダーかもしれないと思うようになりました。
※セクシュアルマイノリティ就職活動をして社会人になる過程で、自分の性別を意識させられる場面も多く、改めて自分の性別について向き合ったときに、女性として扱われるのではなく、男性として見てほしいと思うようになりました。
社会人になってからは、ジェンダークリニックに通い始めて、トランスジェンダーという診断をもらいました。ホルモン治療も始めて、声や見た目も急速に男性っぽくなっていったと思います。
今の会社には5年くらい前に転職して入社しました。当時はプライベートも含めて完全に男性として暮らしていたので、入社に当たっては人事の人にだけ戸籍の性別を伝えたけれど、職場ではだれにもカミングアウトをせずに男性として働き始めました。
うちの会社でも3年前に同性パートナーシップ制度が導入されました。このとき、私にもパートナーはいたのですが、この制度は活用しませんでした。
理由としては、まだ両親に自分のセクシュアリティについてちゃんと話ができていなかったからです。
両親は私の外見の変化にはもちろん気づいていましたが、一緒に暮らしていたわけではないので、お互いにその話題を避けていた感じです。あとは、“同性”パートナーシップ制度という名前に少し引っかかっていたというのも理由としてあります。
私は戸籍女性でパートナーも女性なので“同性”ではあるのですが、私の気持ちとしては“男性”なので、“同性”と言われるとちょっと違うなという感じです(これは大きな理由ではありませんが)。実は、昨年、戸籍の性別変更をしました。手術要件が実質的になくなったおかげで、戸籍変更が少ししやすくなったのは良かったです。
もちろん、性別変更前には両親にもカミングアウトをし、またパートナーのご両親にも全部説明しました。どちらの親も戸惑いはあったと思うのですが、ちゃんと受け止めてくれたのは嬉しかったです。戸籍変更後に、法的な結婚をしたので、今では社内の福利厚生制度を“異性婚”として適用してもらっています。
Sさんのように同性愛なのかトランスジェンダーなのかを悩む人もいます。
Sさんは結果的には社内の同性パートナーシップ制度は利用しませんでしたが、そのような選択肢があったのは良かったと言っていました。
職場の同僚は、Sさんがトランスジェンダーであることも戸籍変更をしたことも知らないので、ただ結婚をしたという事実を祝福してくれたそうです。