『子どもを育てられるなんて思わなかった~LGBTQと「伝統的な家族」のこれから』
現在、夫婦別姓や同性婚などのテーマについて、社会的な議論が大きく広がっています。
それらに反対する意見の一つとして、“伝統的な家族”観や制度が壊れるというものがあります。
本書は、元朝日新聞記者の古田大輔さん、山下知子さん、LGBT当事者であることをオープンにし社会的活動をしている杉山文野さん、松岡宗嗣さんの4人により他の当事者のインタビューなども含めて書かれたものです。
いろいろな家族の形を知れると同時に、そこに至るご本人の苦労や社会的な課題も見えてきます。
企業としての取り組みを進めるうえでも参考になるのでお勧めです。
書籍概要
家族について考えるきっかけに。
多様なLGBTQファミリーの姿を描き、家族のあり方や子育ての悩みに寄り添う。法や政治などいろいろな視点から見えてきた現状と課題、そして広がる家族の未来について対話をまとめる。
目次
序章 広がる家族のかたち
第1章 トランスジェンダーと子育て(杉山文野)
第2章 同性カップルと子育て(松岡宗嗣)
第3章 LGBTQ家族・支援者と子育て(山下知子)
第4章 LGBTQ家族が直面する法的な壁と変化(古田大輔・松岡宗嗣)
第5章 新しい家族観の可能性(青野慶久〈株式会社サイボウズ代表取締役社長〉/久保田智子〈TBS報道局記者〉/寺原真希子〈Marriage For All Japan代表理事〉/杉山文野
あとがき レインボーファミリーの未来へ
印象的なコンテンツ
LGBTの子育てと言っても、トランスジェンダーと同性カップルでは事情が少し異なります。
第1章と第2章では4つの事例が紹介されています。
①1987年生まれのトランス男性。手術をして戸籍変更をしたうえで婚姻。第三者の精子提供により子どもを授かる。
②1964年生まれのトランス女性。パートナーにもカミングアウトができないまま挙式をあげて子どもを授かり、のちにカミングアウトをする。
③レズビアンカップル。子どもをもちたいと願い、インターネット上で精子提供者を募り、“シリンジ法”により病院にはいかずに妊娠し、父親以外が立ち会える病院を探して無事に出産。
『私がシングルマザーと伝えたことに対して、さすがに直接的にあれこれ聞いてくる人はいなかったですが、きっと裏では噂されていたと思いますね』(P87)
妊娠が分かっても、同性愛のことも結婚のことも言っていない中で、職場にどのように出産(休暇)を伝えればいいのか?という悩みです。
『これまで築き上げてきた職場の人たちとの関係性、キャリアがどうなってしまうのか?』(P90)
出産をしなかった恵子さんも子育てに参加するためにはカミングアウトをしたほうがスムーズなのですが、職場でのカミングアウトはそんなに簡単ではありません。
④ゲイカップル。『子どもをもちたい、家族をつくりたい』という想いを実現するために、精子提供者を探していた女性同士のカップルと出会い、相談し妊活をスタートする。妊娠方法、実際の子育てとそのかかわり方、親権、出自を知る権利などについて、お互いの考えを共有し、公正証書にまとめます。
各ケースの概要だけ抜粋しましたが、実際に本書を読んでもらえれば、ご本人たちの子どもを持ちたいという気持ちと、実際にもったときの喜びがより感じられます。
コラムとして弁護士の山下敏雅氏へのインタビューもあります(P165)。
- 女性カップルで、精子提供を受けて一方が出産した場合、出産した側と出産していない側で、それぞれ子どもとの関係はどうなりますか?
- 女性のカップルでは、精子提供を受けるケースが少なくありません。精子提供者が親権を持つことはありますか?
- そもそも第三者からの精子提供は日本では法的にどうなっていますか?
- 海外の法律下で同性婚をした日本国籍と外国籍のカップルは、日本の法律上の関係はどうなりますか?
このような疑問にご自身の経験と法的な観点から回答をしています。
子どもを持つというのは、物理的な部分のほかに、法的な関係性がとても重要な課題です。
感じたこと
本書では同性婚訴訟の札幌高裁の判決(2021年3月)についても大きく取り上げています。
本書は2021年9月に出版されており、それから4年以上が経過し、他の高裁判決も含めて社会もさらに変わってきています。
LGBTだけでなく、異性の事実婚を選ぶカップルや、シングルマザー(ファーザー)も昔よりは増えてきています。
どこまで社員の家族のサポートをするかは企業により異なりますが、今後、増えていく家族の形を念頭において、サポートの方針を検討していくことが大切になってくると思います。