『彼女がそれも愛と呼ぶなら』
ポリアモリーがテーマの一木けいさんの恋愛小説です。
LGBTの中でもポリアモリーというセクシュアリティを耳にすることは少ないかもしれません。
ポリアモリーとは「複数の人と同時に、合意の上で、誠実で持続的な恋愛関係を築く生き方や価値観」のことです。
圧倒的多数は、モノガミーと呼ばれる一人のパートナーとの関係を築きます。
そのためポリアモリーは婚姻制度はもちろん、社会規範や倫理的な面から批判されることも多くあります。

本書では、ポリアモリーというスタイルの恋愛(人生)を謳歌している伊麻とそのパートナーたちの生活を垣間見れると同時に、娘や友人の恋愛模様も対比的に描かれ、恋愛とは?嫉妬とは?執着とは?など問いかけてきます。
ポリアモリーと浮気の違いも考えさせられます。

登場人物にまったく共感できない!主人公の価値観を許せない!という読者もいると思います。
一方で、自分になじみのなかった恋愛スタイルを知る、という多様性視点で読むと興味深いかもしれません。

2025年の春ドラマとして、読売テレビ(主演:栗山千明さん)で放送中です。

 

書籍概要

美容好きの両性愛者、頼りがいのある料理人、博識な大学院生。シングルマザーの伊麻は三人の恋人と暮らしている。
娘の千夏は、高校で人生初の彼氏ができるが、家庭事情を隠していた。
一方、伊麻の友人の絹香は、伊麻を参考に不倫を考え始める。
自由恋愛に生きる女性と、その周囲。正しい恋路を外れた先にあるのは—。価値観を揺さぶる不純文学。

 

印象的なコンテンツ

『嘘のない生活なんてないのかもしれないけど、あまりにも根源的な嘘が混じるとママたちの生活は破綻する』(P55)
ポリアモリーは関係者全員が合意しているということが定義の一つとしてあげられます。だからこそ、パートナーに対して、嘘や不誠実があると破綻してしまいます。

『そんな愛の形ありなの?』(P96)
『嫉妬はしないの?』(P97)
『執着のない愛なんてあるの?』(P97)
ポリアモリーとしての恋愛を謳歌する伊麻に対して、夫の不倫に悩む友人の絹香が素朴な疑問を投げかけます。
これに対して、伊麻は嫉妬することはたまにはあるけど、話し合って解決するといいます。
あくまでもお互いの意思を尊重することで成立する関係です。

『伊麻ちゃんは一切束縛しない。他者性を大切にする人だから』(P185)
『伊麻ちゃんは自分の気持ちを分かってくれて当然とか、つきあってるんだから彼は自分の思い通りに動くべきとか、そういうの、ないの』(P186)
伊麻のパートナーの一人が、伊麻の価値観について説明します。

感じたこと

ポリアモリーというのは、性的マイノリティに含まれるのですが、SOGI(性的指向や性自認)の話とは少し異なります。
ポリアモリーの中には、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアルなどもいますし、シスジェンダーのヘテロセクシュアルというSOGIがマジョリティの人も含まれます。
つまりポリアモリーという、SOGIではなく、恋愛のスタイル(関係指向)の話になります。
一夫多妻制度が認められている国もありますが、世界全体でみてもモノガミー(一対一の恋愛関係)が圧倒的です。
そのため、なかなかイメージがしにくいという人が多いです。

伊麻とそのパートナーたちはお互いを尊重しあい慈しみあっており、とても自然な恋愛や生活として描かれています。一方で友人の絹香のいわゆる“フツー”の家庭のほうが異常な空気感を感じさせたりします。

先入観をいったん外して、まずはポリアモリーについて知ってみてはいかがでしょうか?