採用スケジュールの変更に伴い、インターンシップの実施が一般的になり、なおかつ最近はワンデイから1週間以上のプログラムの実施が増えています。
インターンシップでは、企業の採用ページや説明会だけでは分からない、現場の雰囲気など企業についてより具体的に理解することが可能です。
今回ご紹介するのは、Aさん(ゲイ)のインターンシップでの体験談です。

私は、大学3年生のときに何社かインターンシップに参加しました。その中でも食品大手企業のX社のインターンシップに参加しました。
X社は「ダイバーシティ&インクルージョン」を積極的に掲げており、LGBTに関する制度や社内研修を実施しているという情報もHPに記載されていました。

私自身は、就活では自分のセクシュアリティ(ゲイ)をカミングアウトする必要はないと思っていましたが、職場の空気を少しでも知ることができれば、と思っていました。

インターンシップは初日から、気になることがありました。
午前の仕事を終えた後、他のインターン生や若手社員たちと一緒に社内カフェでランチをとることになりました。そこで先輩社員から「みんなは、彼女とかいるの?」という一言がありました。
周囲の学生たちは笑いながら「いないです〜」と答えていましたが、私は一瞬戸惑いながら、「今は…いません」と曖昧に答えるしかありませんでした。
たった一言かもしれないですが、でもそのとき「あ、ここでは自分の話を正直にはできないな」って、思ってしまいました。
なんとなく、その質問は異性愛が“前提”として流れている空気を感じさせるものだったのです。

さらに、インターン3日目、昼休みの会話の中で別の社員が話題を振ってきました。
「来週このあたりでフェスやってるんだよ。Aくん、彼女と行ってみたら!」
私は愛想笑いをしながら「いいですね〜」とだけ答えましたが、その後も、別の社員から「飲み会あるけど、彼女に怒られないように(笑)」という言葉が出てきたり、他のインターン生が自然に「彼女と…」と話しているのを見聞きしたりする中で、自分だけが“会話の外側”にいるような感覚に襲われました。

「彼氏がいる」とは言えないし、かといって嘘もつけない。その結果、「誰とも付き合っていない人」として話を合わせるしかありませんでした。
「1日中ずっと、“本当の自分”をちょっと横に置きながら会話するのって、すごく疲れるんですよね」

Aさんは、X社のインターン期間中、業務そのものにはやりがいを感じていて、グループワークでは意見を積極的に出し、フィードバック面談でも評価は高かったそうです。
ただ、インターンシップの中で“どうしても拭えない違和感”が残ったそうです。

どの社員も悪気があるわけではないし、誰かに嫌なことを言われたわけでもないけれど、“異性愛の前提”や、“誰もそれを問題と感じていない空気”に、Aさんはじわじわと孤独を感じるようになってしまい、最終的にはX社の選考は辞退したそうです。
Aさんは、その後、他の企業のインターンシップにも積極的に足を運び、説明会ではわからない“その会社の空気”を、自分の肌で確かめたそうです。
「自分が安心して働ける場所かどうか。それって、やっぱり実際にその場に行ってみないとわからないんですよね」と話してくれました。

職場の風土づくりというのはどの企業にとっても大きな課題です。
インターンシップで就活生と接するときは、同僚との会話や距離感、コミュニケーションと異なる部分があるからこそ、別の注意点もあります。
意識づくりは一朝一夕に進まないからこそ、地道な取り組みが大切になります。