『汝、星のごとく』
第168回直木賞の候補作であり、全国の書店員により「2023年本屋大賞」に選ばれた作品です。
著者の凪良ゆう氏は2020年にも『流浪の月』で本屋大賞を受賞しており、2度目の受賞作品になります。
『流浪の月』では、性的マイノリティの中のマイノリティを主人公として描いており、そのマイノリティへの“理解”ついて読者に問う一面がありました。
本作では、主人公の漫画仲間が同性愛者(ゲイ)として登場し、それが理由の一つで、主人公に大きな影響をあたえます。
しかしこれは本作の大切な要素の一つではありますが、メインテーマは恋愛を軸として人としての優しさや弱さなどが描かれています。
この記事では、ブログの性質上、本作をLGBTという視点で紹介しますが、実際には、もっと多くの読みどころ、魅力があります。
LGBTという視点を特に意識することなく本作を読んでみて、その中で、隣にいる人の一人として、同性愛者の生きづらさにも思いを巡らせてみてはいかがでしょうか?
おススメの一冊です。
書籍概要
瀬戸内の島で育った高校生の暁海(あきみ)と、京都から転校してきた櫂(かい)。
徐々に惹かれ合い、一緒に過ごすようになった2人の、高校生から30歳を超えるまでが、それぞれの視点で交互に描かれている。
ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。
ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。
印象的なコンテンツ
『旅行のことがバレたとき、佳くん、親にカミングアウトしたんだ。いいとこの家のひとり息子だから、親もショックだったみたいでさ。向こうの親は、圭くんはまともだって、俺にたぶらかされたんだって言ってる』
『認めたくないんだよ。自分たちの息子がゲイだって』(P176)
主人公の櫂(かい)の漫画製作のパートナーである尚人(なおと)はゲイです。
尚人は相手の高校生(圭くん)とまじめな交際をしていたけれど、圭くんが高校を卒業する直前の3月に一緒に沖縄旅行に行ったことが、圭くんの親にバレて“未成年へのいたずら”として圭くんの両親に訴えられます。
しかし、圭くんの相手=尚人が女性であったらどうだったのでしょうか?
未成年へのいたずらかとうかではなく、自分の息子が同性愛者であったことにショックをうけていたのでした。
最近ではLGBTへの理解も進み、差別的な意識はない人も増えていますが、自分の家族のこととなると、気になってしまうというケースも多くあります。
相手が、有名漫画家だったために、週刊誌で報道され、結果として圭くん自身に身元がSNSに晒されることになってしまいます。
『なにも悪いことはしていないのだから堂々としていればいい、などと言うやつは当事者になってみればいい。いくら多様性が謳われる時代と言えど、自らの意志以外で性的指向を晒されるのは精神の拷問だ』(P205)
自分が正しいかどうかと、自分が傷つくかどうかは別の話です。
悪いことをしていなかったにも関わらず、人気絶頂だった漫画は連載ストップ、廃刊となり、尚人は精神を病んでしまいます。
感じたこと
本作の大きなテーマの一つにヤングケアラーというのがあります。
LGBTも含めて今風のテーマを扱っている作品にも思いますが、根底にあるのは、異性間の恋愛をベースにした人生の選択や自由、人としての弱さや優しさが描かれていて、多くの人の共感を呼んでいます。
日常の中で性的マイノリティを感じられる作品です。