仕事には性的指向は関係ない、と言われます。
確かに、仕事そのものには直接は関係しませんが、職場は人とかかわる場でもあるので、カミングアウトをするかどうかは人間関係やコミュニケーションに関係し、それが仕事の成果や帰属意識にもつながることがあります。
今回は、職場でカミングアウトをして良かったというYさん(レズビアン)のお話をご紹介します。
私がレズビアンであることを、職場で初めて打ち明けたのは、入社して3年目でした。
ずっと言わずに働いてきたのですが、理由は単純で「仕事に関係ないし、わざわざ言う必要もない」と思っていたからです。
でも同時に、心のどこかで「もしバレたらどうなるんだろう」という不安もありました。
雑談で異性の恋愛話が出るたびに、会話を適当に流す自分に、だんだん疲れも感じでいました。カミングアウトをしたきっかけは、同僚のAさんとのランチです。
Aさんは、社内でも話しやすく、仕事でも頼れる存在でした。
ご飯を食べながらいろいろ話をしている最中に、ふと「彼氏いるの?」と聞かれました。
一瞬、言葉が詰まって、以前なら「いや、今は…」と濁したと思うのですが、そのときは「実は彼氏じゃなくて、彼女なんです」と口にしていました。
自分でも驚くくらい、あっさり出てきた感じです。Aさんは一瞬「あっ!」って顔をしたあと、「あ、そうなんだ!」と笑ってくれました。
その反応は拒絶ではなく、ただ事実を受け止めてくれた感じです。
「彼女って、どんな人?どこで知り合ったの?」と、話題が次に自然に進んでいって話が盛り上がりました。
私の中にあった「カミングアウトをしたら関係が変わるかもしれない」という恐れが、少しとけた気がしました。その後も少しずつ、信頼できそうな人にだけ話すようになりました。
おもしろいことに、「実は私も友達にゲイがいるんだ」とか「親戚が同性婚してるよ」という話を返してくれる人もいました。
まるで秘密の部屋の扉を開けたら、そこに思った以上の人が集まっていた、そんな感覚です。もちろん、全員が同じように受け止めてくれるわけではないです。
露骨に否定してくる人はいませんが、興味本位で質問を浴びせてくる人や、「でも結婚はできないじゃん」と無神経に言う人もいました。カミングアウトしてからは、仕事でも少し楽になった気がします。
意識はしていませんでしたが、自分を隠すためにエネルギーを使っていたんだと思います。
今はそれが仕事に向けて使えるようになりました。
同時に、職場はただ仕事をする場所ではなく、人として関わり合う場所なんだと改めて思いました。
その中で自分のあり方を受け止めてもらえるのは、思っていた以上に力になります。あの日、Aさんが「そうなんだ」と笑ってくれなかったら、私は今もきっと黙っていたんだと思います。
だから私は、この経験を、たとえ誰かに話す機会が少なくても、自分の中で大切に持ち続けていたいと思います。
性自認に関するカミングアウトや、管理職としてカミングアウトを受ける場合とは違い、同性愛の“同僚”からのカミングアウトの場合、具体的な対応を職場に求めるというよりも、嘘や隠し事をしたくない、という気持ちが強い場合が多いです。
そのため、このようなカミングアウトに対する対応としては、特別な知識やマニュアルに基づいたものというより、必要以上に驚かず、必要以上に距離を詰めず、「それもあなたの一部」という受け止め方がちょうどよいということも多いです。
Yさんはカミングアウトをする前も、職場で具体的な働きにくさがあったわけではありません。ただ、隠さなくてよくなったことで、より仕事に集中できるようになったとのことです。
職場の理解を広げていくためには、一人ひとりの“あたりまえ”の意識が少しずつ変わっていくことが大切になります。