「片袖の魚」
LGBTの取り組みや啓発活動を進める企業では、基礎研修を終えた次のステップとして社内での映画上映会&ディスカッションをするケースもしばしばあります。
本作は、主人公のトランスジェンダーが経験する“マイクロアグレッション”を丁寧に描いた短編作品です。
これまでの映画ではトランスジェンダー役をシスジェンダーの俳優が演じることが一般的でしたが、本作ではトランスジェンダー俳優を公募し、主役に抜擢したことも特徴の一つです。
約30〜40分という短時間で鑑賞できるため、アライコミュニティの活動の一つとしても使いやすい素材でおススメです。
※以下、ネタバレあります。
ストーリー
トランスジェンダー女性の新谷ひかり(イシヅカユウ)は、ときに周囲の人々とのあいだに言いようのない壁を感じながらも、友人で同じくトランス女性の千秋(広畑りか)をはじめ上司である中山(原日出子)や同僚の辻(猪狩ともか)ら理解者に恵まれ、会社員として働きながら東京で一人暮らしをしている。
ある日、出張で故郷の街へと出向くことが決まる。
ふとよぎる過去の記憶。ひかりは、高校時代に同級生だった久田敬(黒住尚生)に、いまの自分の姿を見てほしいと考え、勇気をふり絞って連絡をするのだが。
シーン
主人公のひかりが取引先を訪れてトイレの場所を聞いた際、先方の担当者が「2階に誰でもトイレがあるんで使ってくださいね」と、何気なく答えるシーンがあります。
表情には悪意も侮蔑もなく、むしろ「配慮しているつもり」の口調です。
ただ周りの第三者が興味本位の視線をひかりに向け、ひかりは一瞬の間を置き、「すみません」と受け止めるのですが、動揺が残ります。
バーを経営するトランス女性の千秋相手に、ひかりは昔の同級生に自らの恋心を告白するか相談をします。
それに対して千秋は、ひかりに自信をつけさせようと「自称ノンケなんていっぱいいるんだから」と言いながら、バーテンダーを意味深な目つきで示します。
このようなアウティングもあります。
ひかりが営業先に訪問にいったときに、遠慮のない視線でひかりを見ながら「もしかして新谷さんって男性?」と直截的な質問をうけます。
大きくなる水の音がひかりの心の揺れを表しています。
思い切って昔の部活の同級生のたかしに会うことにし、待ち合わせ場所の居酒屋にいったところ、同じサッカー部のチームメンバーが大勢いました。
「こうきか、めっちゃ女やん」「しっかり女性になったよね」「今思えば、その頃からオネエぽかったよね」「今日いるメンバーの中で誰が一番タイプですか?」
同級生たちは、悪気を意識することなくホモソーシャルなノリで容赦のない質問をひかりに浴びせかけます。
感想
『片袖の魚』は、大きなドラマや説明的なセリフではなく、沈黙・間・視線・水音など、静かな表現でトランスジェンダーの“日常の痛み”を浮かび上がらせる映画です。
映画なので、ある一つの視点から描かれており、好みや考えが合わないという人もいると思いますが、わかりやすいトランスジェンダー“あるある”が多く盛り込まれているという点でも、社内研修・グループワークの題材としてはおススメです。




