職場でのカミングアウトにはいろいろなケースがあります。カミングアウトによって相手との関係が変化することも多くあります。
相手から差別的な言動を受ける場合もありますが、カミングアウトによって人間関係が良くなる場合もあります。
今回は、職場の後輩にカミングアウトすることで、信頼関係が深まったというHさんのお話をご紹介します。
私は、30歳です。セクシュアリティはゲイです。
少し前の話になりますが。大型案件の対応で残業が続いていた時期がありました。あるとき、直属の後輩と二人で資料修正をしていました。
入社三年目の後輩は真面目で、普段からよく相談をしてくるタイプです。終電間際、作業が一段落したタイミングで雑談になり、後輩からこう聞かれました。「先輩って、休みの日なにしてるんですか。彼女さん、怒らないんですか?」
これまでもこの手の質問はこの後輩に限らず職場でちょくちょくあったのですが、いつも曖昧に笑って流してきていました。
カミングアウトをすることで、どうなるか分からないという漠然とした不安があったと思います。ただ、その日はなんとなく、ごまかしたくない気持ちが勝ちました。
日々一緒に働き、いろんなことを共有している相手に、自分の一部だけを隠していることに違和感があったからです。「彼女はいないよ。というか、俺、ゲイなんだ」
そう伝えると、後輩の手が止まり、数秒の沈黙がありました。正直に言って、その沈黙はとても長く感じました。
驚かせたかもしれない、と不安もよぎりました。
やがて後輩は「そうなんですね」と言い、少し考えてから続けました。「話してくれて、ありがとうございます。なんか……うまく言えないですけど、信頼してもらえた感じがして、嬉しいです」
その言葉が強く印象に残っています。
「理解します」でも「気にしません」でもなく、「信頼」という表現でした。受け入れられるかどうかを気にしていたのは自分の方でしたが、後輩は“打ち明けられた側”として真剣に受け止めてくれたのだと感じました。その後も後輩は態度が変わることはありませんでした。
むしろ以前より積極的に意見を出すようになり、「先輩なら、ちゃんと本音で返してくれる気がするんです」と言われることもありました。
私が自分のことを隠さなくなったことで、後輩も遠慮を手放したのかもしれません。カミングアウトは勇気のいる行為ですし、結果は相手次第です。
ただこの経験では、自分を偽らずに働けることが、仕事上の信頼関係を深めるきっかけになりました。性的指向を伝えたというよりも、本音を共有した出来事だったと感じています。
結果的に仕事自体のパフォーマンスもあがったという気がします。
Hさんは職場ではこの後輩以外には現在もカミングアウトをしていないそうです。
他の同僚にもカミングアウトできれば、もっと働きやすくなるかもしれないという思いはあるのですが、一方で、何か言われたら不安という気持ちも大きいそうです。
それでも一人でも話せたことは第一歩としては大きいと、Hさんは、この話を笑顔でしてくれました。




