『ミモザの告白』

ライトノベルが中心のガガガ文庫(小学館)から出版されている八目迷さんの作品です。

高校の同級生からの「今日から女の子としていきていく」という突然の宣言を機に、話は展開していきます。
高校の教室、クラスメイトが舞台なので、職場や社会人とは異なる要素もたくさんありますが、一方で、突然の告白をどう受け止めるのか?どういう反応になってしまうのか?どういう対応ができるのか?というようなことは共通します。

一人の人間が自分の性自認を表明するだけで、コミュニティがどれほど揺れるのかが丁寧に描かれています。
分かりやすい差別やいじめだけでなく、むしろ「善意のズレ」や「理解しきれない感情」なども描かれています。
ライトノベルだからこその読みやすさと同時に、内面に深く迫る考察、筆力は読み手を引き込んでいきます。
高校生から社会人(人事担当者)まで幅広くおススメです。

書籍概要

その告白が、世界を変える。
とある地方都市に暮らす冴えない高校生・紙木咲馬には、完璧な幼馴染がいた。
槻ノ木汐――咲馬の幼馴染である彼は、イケメンよりも美少年という表現がしっくり来るほど魅力的な容姿をしている。そのうえスポーツ万能、かつ成績は常に学年トップクラス。極めつけには人望があり、特に女子からは絶大な人気を誇っている――。

幼馴染で誰よりも仲がよかった二人は、しかし高校に進学してからは疎遠な関係に。過去のトラウマと汐に対する劣等感から、咲馬はすっかり性格をこじらせていた。
そんな咲馬にも、好きな人ができる。クラスの愛されキャラ・星原夏希。彼女と小説の話で意気投合した咲馬は、熱い恋心に浮かれた。

しかしその日の夜、咲馬は公園で信じられないものを目にする。
それはセーラー服を着て泣きじゃくる、槻ノ木汐だった。

印象的なコンテンツ

『だから、俺も人に言えない秘密を差し出すべきかと思って、小説のことを話した。これでイーブンだ』(P96)
自宅で女装している姿を家族に見られてしまったという、親友からの告白をきいたときに、何も声をかけられなかった主人公の咲馬は、悩んだ末、翌日、自分が以前、小説の新人賞に応募してボロックソに酷評された本の原稿を、差し出します。
秘密を共有してくれた友人に、自分の秘密を告白するという方法です。正解ではないかもしれませんが、「真面目に悩むのがバカらしくなる」という形で、結果的に寄り添えました。

『ま、いっか』(P208)
転校生で女子生徒から人気のある世良が、女の子として生活をしている汐に声をかけた際に、周囲から「男だぜ」と聞かされたときの反応です。
世良にとっては、汐の戸籍や身体の性別が絶対ではなかったからこそ、このような反応をしました。

『綺麗事ばっか吐かないでよ。あんたが尊重してんのは汐の意思じゃなく、可哀想な汐に優しくしてる自分自身でしょ』
『人の気持ちは変わっても、性別は簡単には変えられない。だったら多少の不満はあっても、自分の身体に考え方を合わせた方が、よっぽど健康的で賢い生き方だと思わない?』(P265)
“男”としての汐に恋愛感情をいだいていた西園が、汐の気持ちを尊重しようとする主人公の咲馬に言い返すシーンです。
親友より、恋愛対象というある意味より距離が近い立場だからこその意見でもあります。距離が遠ければ、相手を“尊重”はしやすいです。

感じたこと

LGBTの取り組みというと「正しい知識」や「制度づくり」に焦点が当たりがちです。
これも大切ですが、実際の職場では社員一人ひとりが戸惑いながら関係を築いていきます。本書は、そのプロセスを感情レベルで追体験させてくれる作品です。
主人公がアンコンシャス・バイアスに気づくシーンもあります。おすすめの一冊です。