直木賞作家で、『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『白夜行』などの多数の作品で知られるミステリー作家の東野圭吾さんが、LGBTをテーマに書いたミステリーが『片想い』です。
LGBTをテーマにした書籍というと、流行りものかと思いがちですが、この書籍はもともと1999年に連載された作品になります。
日本で性同一性障害者の性別に関する特例法が制定されたのが2003年。3年B組金八先生で上戸彩さんが性同一性障害の役を演じたのが2001年であること考えても、非常に早い時期での作品と言えます。
今から20年前にLGBTというテーマをとりあげ、さらに深く当事者の内面に迫っているというのは、凄い!としか言いようがないです。
600ページの長編ですが、セクシュアリティについて考えさせられながらも、ミステリーというエンターテインメント性ももちろんあるので、一気に読めます。
書籍概要
十年ぶりに再会した美月は、男の姿をしていた。彼女から、殺人を告白された哲朗は、美月の親友である妻とともに、彼女をかくまうが…。十年という歳月は、かつての仲間たちを、そして自分を、変えてしまったのだろうか。過ぎ去った青春の日々を裏切るまいとする仲間たちを描いた、傑作長篇ミステリー。
印象的なテーマ
『見た目と戸籍の性別の違い』
性同一性障害(トランスジェンダー)で、ある程度の移行が進むと生じるのが見た目と戸籍性のギャップです。このギャップが殺人事件の最初のカギになります。人は見た目で性別を判断しているということを改めて気づかされます。
『セックスチェック』
インターセックスの当事者が出てきます。戸籍上は女性なのですが、男性ホルモンの影響もあり陸上競技で素晴らしい成績をあげています。スポーツの多くは男女で競技が分かれていますが、その際の男女を分けるもの何か?
オリンピックであっても完全に?正確に?男女を分けることはできず、例外は残っています。
『メビウスの帯』
生まれたときの身体は男女どちらかに分かれたとしても、性自認というところまで考えると、100%男性や100%女性がいるのか?という疑問になります。
メビウスの帯のように、男女も表裏の関係であり、つながっているものでもあるので典型的な男性も女性も、性同一性障害当事者も同じという考えがでてきます。
感じたこと
本書では、青春や友情・夫婦の形というようなものもでてきますが、やはり性別というのが大きなテーマになっています。
男とは?女とは?それは生まれたときの性別で決まるのか?それが典型でない場合には?戸籍は絶対なのか?性自認は一定なのか?親子間のカミングアウトは?など考えさせられます。
本書を原作として、2017年には中谷美紀さんが主演でWOWOWでドラマ化もされています。もしチャンスがあればこちらもお勧めです。