『ストレンジ・ワールド もうひとつの世界』
近年、多様性というのは映画業界でも大きなテーマの一つになっています。これまで異性愛、家族愛、動物やロボットとの愛情など、さまざまな形の愛を描いてきたディズニーが、長編映画初の同性愛者(ゲイ)を主人公として描いたのが本作です。
主人公はゲイなのですが、それは主人公の属性の一つなだけでLGBTは映画のテーマではありません。主人公以外にも多様性を意識したキャラクターが何人も登場しており、またSDGs(環境問題)、祖父・父・息子三代の親子関係なども興味深く描かれています。
もちろん、ディズニー映画らしくとてもきれいな映像、わくわくするアドベンチャーストーリー、不思議な世界観など、いろいろな視点で楽しめる映画です。現在、劇場公開中なので、年末年始の鑑賞もおススメです。
ストーリー
若いころに行方不明となった偉大な冒険家の父へのコンプレックスから冒険を嫌うようになったサーチャー・クレイドは、豊かな国アヴァロニアで、愛する息子のイーサンと妻とともに農夫として静かに暮らしていた。しかしある時、アヴァロニアのエネルギー源である植物が絶滅の危機を迎え、世界は崩壊へと向かってしまう。この危機を救うため、サーチャーたちは地底に広がる、“もうひとつの世界(ストレンジ・ワールド)”へと足を踏み入れるが…。
内容
映画全体の内容としては、LGBTに関する部分はごく一部ですが、この記事ではその部分にフォーカスして内容を紹介します。
映画の冒頭で、イーサンが父のサーチャーに好きな人を紹介するシーンがあります。サーチャーは息子の好きな人がどんな人か興味津々で、グイグイ話しかけていくのですが、イーサンは照れてなんとか止めようとします。
このシーンには、カミングアウトもありませんし、親子にも相手にもまわりの友達にも葛藤も特別視もありません。
また映画の中盤で、イーサンが祖父のイェーガーに好きな人の話をするシーンがあります。ここでもイェーガーは「Who is she?」ではなく、「Who is it?」と聞きます。異性愛が前提ではないということです。イェーガーはマッチョな冒険家で男らしさみたいなこだわりがある一方で、恋愛に関しては、同性愛も当たり前という感覚を持っているようです。
これはアヴァロニアという架空の世界の話なので、現実の社会とは異なるのですが、イーサンはセクシュアリティに関しては全く悩みがなくとても生きやすそうです。
感想
この映画には、同性愛のイーサンのほかに、3本脚のイーサンの愛犬、黒人のイーサンの母親、アジア系の女性大統領などが活躍します。幅広くダイバーシティを意識していると思われます。
そのいずれも、映画の展開上の必然性はほとんどありません。必然性がないなかで、これだけ多様性を意識したキャラを登場させることへの反発をいだく人もいるかと思います。
一方で、現実社会において同性愛者などの存在は、別に必然性があるものではなく、ただそこに存在しているものだとも言えます。
2022年初めには、ディズニー社はフロリダ州の「ゲイと言ってはいけない(Don’t Say Gay)法」に明確な反対を示さない&法案を支持する政治家への献金が批判の対象となっていました。またこれまでの映画内でも同性愛の描写の削除の指示が社内であったという批判もあります。
そんな中での今回の映画は、幅広い層にファンをもつディズニーならではの多様性に関する社会へのメッセージだったのではないかと思います。
SDGsに関連するエネルギー環境問題、昭和的なおじいちゃんと平成的なお父さん、令和的な息子のやり取りもとても面白いのでおススメです。