企業のLGBT施策として、もっとも導入が進んでいるものの一つが、パートナーシップ制度(同性パートナーにも法的な婚姻関係と同様の福利厚生制度の適用をする制度)です。
この制度も企業によって設計がいろいろありますが、セクシュアリティという情報をどこまで共有するのかというのも一つのポイントになります。
特に直属の上司が知るのかどうかで働きやすさが変わる場合もあります。
今回は実際に職場の同性パートナーシップ制度に申請したIさんに、利用して感じたことをお聞きしました。
私は現在32歳の女性で同性のパートナーがいます。
彼女とは3年ほど一緒に暮らしていて、つい先日、二人の記念日に東京都のパートナーシップ宣誓制度の申請をしました。今の会社は入社して5年が経ち、職場の上司や同僚とも仲良く働いていますが、これまで自分のセクシュアリティに関しては一切カミングアウトをしていませんでした。
職場の飲み会などで、「彼氏いないの?」「結婚しないの?」ということを聞かれたことも何度かありますが、そのときは話をあわせて、今のパートナーを彼氏に置き換えて、彼氏がいるという形で答えていました。職場でカミングアウトをしていなかったのは、どうしても知られたくないというよりも、カミングアウトをしてもいいけれど、いろいろ聞かれて面倒なことになるのも嫌なので、わざわざいう必要もないという気持ちでした。
ただ今回、彼女とずっと暮らしていこうと決心して東京都のパートナーシップ制度に申請したので、あわせて職場でのパートナーシップ制度も申請することにしました。
うちの会社のパートナーシップ制度は、システム上、人事部に直接申請ができずに、直属の上司の承認が必要な形です。
実際に申請したときには、上司には特に何もいわずシステムで申請をしました。人事部からは連絡があり、必要書類の提出をして会社からはパートナーシップ制度の適用が認められました。私は上司のリアクションがちょっと気になったので様子見をしていたのですが、しばらくして、たまたま二人になったタイミングで、上司から「知らなかったとはいえ、これまで傷つけたことを言っていたかもしれないから、ごめんね」という謝罪がありました。
確かにこの上司は50代というのもあり?こういう話には疎いし、いわゆる昭和の価値観で話す部分があるので気になる発言もあったのですが、人としても上司としてもいい人で、私はこれまでのことも不満は全くなかったので、そのようにお話しました。
むしろ、変に気を遣われて仕事に影響がでるほうが嫌なので、「今までと同じでいいですよ」とお伝えしました。職場の同僚には特にカミングアウトをしていないので、休憩時間に同僚から恋愛話を振られることがありました。
そんなときに上司が「最近は、いろんな恋愛の形があるからな。決めつけないほうがいいよ」と軽く注意していました。これまでのその上司の言動からするとかなり違和感のある発言だったし、そもそも同性愛は昔からあるので“最近の形”ではないし、などいろいろ気にはなったのですが、同僚もなんとなく、「そうか」という感じに受け止めた人もいて、最近はちょっと言い方や話題が変わった気がしています。
Iさんは、職場で働きにくさを抱えていたわけではありません。
しかし会社のパートナーシップ制度の申請を通じて、他の人にとって当たり前のことを自分も当たり前としてできたことで「自分でも気づいていなかったのですが、たぶんモヤモヤしたものが少しあって、それが晴れた気がします」と言っていました。