『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療があおる流行の悲劇』

2024年1月にKADOKAWAから刊行される予定だったものが、『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』というタイトルや内容についての批判により出版中止となり、その後、タイトルを変え4月に産経新聞出版より刊行された本です。
4月の出版にあたっても、書店に放火予告のメールが届き、取り扱い見送りの書店がでるなど内容そのもの以外の部分で話題になっている本です。

ダイバーシティ推進担当の方からも、この本をどう捉えるのが良いですか?というご質問もあったので、今回は『トランスジェンダーになりたい少女たち』をご紹介します。

書籍概要

思春期に突然「性別違和」を訴える少女が西欧諸国で急増しているのはなぜか。
かつては性同一性障害と呼ばれていた「性別違和」は幼少期に発現し、およそ全人口の0.01パーセントに見られ、そのほとんどが男児だった。
「性別違和」の急増や男女比の突然の逆転——何が起こっているのか。

・SNSとインフルエンサーたち
・幼稚園からジェンダー思想を教える学校教育
・精神科医の新標準「ジェンダー肯定ケア」
・思春期ブロッカー・ホルモン補充療法・乳房切除手術
・権威すらもキャンセルされる活動家の激しい抗議
……約200人、50家族を取材した著者が少女たちの流行の実態を明らかにする。

米国ベストセラー『Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters』の邦訳版

「それまで違和感を覚えたことはなかったのに、学校やインターネットで過激なジェンダー思想に触れて傾倒した十代の少女たちがもてはやされている。そうした少女たちの後押しをしているのは、同世代の仲間たちのみならず、セラピスト、教師、インターネット上の著名人たちだ。だが、そんな若さゆえの暴走の代償はピアスの穴やタトゥーではない。肉体のおよそ四五〇グラムもの切除だ。(中略)いわばフォロワーになっただけの思春期の少女たちに、そのような高い代償を払わせるわけにはいかない」(「はじめに」より)

筆者の主張

  • 性別違和(≒性同一性障害)自体は否定していない。性別違和は、2-4歳の幼少期に自分自身の身体への違和を感じており、その多くが男児(戸籍上)である。
  • 近年、西欧諸国ではトランスジェンダーを自認する(トランスジェンダーに“なる”)思春期の少女が急増している。
  • これは上位中産階級白人の少女たち特有の(ジェンダーに限らない)思春期のアイデンティティに関する問題である。
  • トランスジェンダーというアイデンティティを手に入れることは、少女たちの希望であり安定につながっている。
  • 思春期におけるトランスジェンダーへの志向は、SNS上のインフルエンサーとそれを囲むコミュニティに大きな影響を受けていることが多い。
  • トランスジェンダーになりたいという少女たちに対して、学校では性自認だけを尊重し肯定する。
  • 治療には不可逆性があるからこそ、本人は早期の治療開始を望む。
  • 一方で、治療開始後に「やっぱり違う」と思うことがあり、後戻りができない。
  • そうならないために、「子供にスマホを与えない」「ジェンダー教育をしない」「田舎にいってネット環境からひきはなす」のがよい。

感じたこと

・著者のSOGIはマジョリティ側(シスジェンダーヘテロセクシュアル)で、それを前提とする価値観が根底にあるうえでの記述となっている
・インタビューが豊富にあるものの、ほとんどが親へのインタビューであり、実際に悩みを抱える子供へのインタビューがない
・ベースになっているROGD(急速発症性性別違和症候群)という考え方は科学的とは言い切れない

本書に関してはトランスジェンダーに“なりたい”というような表現上の問題とは別に、上記のような批判があります。

本書の内容及び批判にも関連しますが、そもそも“トランスジェンダー”という言葉に含まれる人々は非常に多様です。
自分の身体に強い違和を感じ手術を望むトランスジェンダーと、男女二元論に違和を持つトランスジェンダー(ノンバイナリー)では、求める制度や考え方に違いがあるので、「トランスジェンダーは・・・」という主張は、一部のトランスジェンダーには当てはまるけれど、別の一部のトランスジェンダーにはあてはまらないということもよくあります。
だからこそ、「トランスジェンダーは・・・」という主張は当事者同士でも対立を生みやすいです。

本書は偏った視点・立場から書かれているものだということを念頭に読んだほうが良いかと思います。
一方で、トランスジェンダーの自認やそれに伴う治療に関しては、慎重さが求められるという点は大事な視座とも言えます。

読み手にバランスが求められますが、アメリカでベストセラーになったそうなので、一読しても良いかと思います。