トランスジェンダーが、職場で働きながら性別移行をしていく場合には、カミングアウトが必要になることが多いです。
周りとの人間関係が大きく変化することもあるのですが、実際にどのように変化するかは、カミングアウトをしてみないと分からないというのも現実です。
今回は、働きながら性別移行をしていったYさん(トランス男性)の体験談をご紹介します。
僕は戸籍上は女性として生まれましたが、物心ついた頃からずっと「自分は男なんだ」と思って生きてきました。
高校ではソフトボール部に入って、髪型はずっとショート。普段の服装もボーイッシュで、よく「男の子と間違えた!」って言われることも多かったです。
身長は158cmなので、男性としたらかなり小柄になるのですが、自分の中ではずっと「僕」としてのアイデンティティを大切にしてきました。
高校を卒業して、地元の工場に就職しました。今思えば、そこが大きな転機になりました。就職して2年目に、僕は職場でカミングアウトをしました。
それまで、性自認のことを職場で話すのはとても怖かったし、特に、工場長とか班長って年配の男性が多くて、「理解してもらえないんじゃないか」「変に思われたらどうしよう」と、ずっと不安がつきまとっていました。
でも、ずっと隠し続けて働くのもしんどかったです。
制服に着替えるときも、トイレに行くときも、周りの視線や自分の違和感に耐えながらの日々でした。
ずっと我慢してきたのですが、ある日、「このままじゃ自分らしく生きられない」と思って、思い切って班長に相談しました。
そのあと工場長にも呼ばれて、どうしたいのか聞かれました。
そのときは本当に手が震えるくらい緊張しました。
「どう思われるんだろう」「退職しないといけないかも…」とも思っていました。工場長は、トランスジェンダーとかたぶんよく分かっていないかったと思いますが、どうしたら働きやすいかという目線で、一緒に考えてくれたのがとても意外だったし、ほっとしました。
そして工場のトイレは男性用を使わせてもらえるようになりました。
更衣室については、当時はまだホルモン治療も手術もしていなかったので、工場の空きスペースを整理して、そこを一人用の更衣室として使わせてもらいました。
正直、その配慮にはすごく救われたし、ありがたかったです。職場のメンバー全員にもカミングアウトをしたのですが、最初は正直、ちょっと興味本位みたいな感じで「え、そうなの?」「どういうこと?」と質問攻めにあったりもしたけど、それがだんだん落ち着いてきて、普通に接してくれるようになったんです。
今では、胸の手術も終わって、自分の身体への違和感もだいぶ減りました。
職場でも、前より堂々と笑えるようになった気がします。来年には戸籍の性別変更を申請する予定です。もちろん、トランスジェンダーであることを公表するのは簡単なことじゃないし、職場の環境によっては難しいこともあると思います。
でも、僕の場合は、思い切って話してみて、本当に良かったと思っています。
班のメンバーも、工場長も班長も、結局は「僕」という個人を見てくれていると感じています。今では、普通に冗談を言い合ったり、一緒にご飯を食べに行ったりする仲間です。カミングアウトすることで何かが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。
でも、自分の人生は自分のもので、やっぱり、自分らしく生きることが何より大事なんじゃないかなって思います。
在職したまま性別移行をしていく(在職トランス)場合には、設備などの対応も大切ですが、それ以上に周囲の人のLGBT(トランスジェンダー)に対する知識や理解度が大切になります。
同時に、本人と周りとのそれまでの人間関係にも大きく影響を受けます。
”トランスジェンダーの”Yさんではなく、一人のメンバーとしてのYさんと接してもらえると、働きやすくなることが多いです。