Sさんは2019年3月に都内の私立大学を卒業予定の就活生です。この話は6月中旬(就活終盤)に話を聞いたSさん(MTFトランスジェンダー)の就活実態です。

トランスジェンダーが就職する際に、自認する性別での就職で理解を得られないケースは多いです。LGBTフレンドリー企業であってもパス度が低いために、営業職は難しいなど職種が絞られることもあります。
一方で今回の事例のようにパス度が高くても就活が難しいケースはあります。

私は、物心ついたときから、男性として扱われることに違和感がありました。子供時代から女の子の友達が多く、遊びも外で走り回るより家の中でママゴトをするほうが多かったと聞いています。

小さい頃はそれでもあまり自覚はなかったのですが、高校生のときに性同一性障害という言葉を知り、初めて自分の感覚がぴたりと当てはまった気がしました。
大学生になってからは、女性として生きようと決め、ホルモン治療をはじめました。大学の友達は私がもともと男だったというのを知っている人もいますが、受け入れてくれています。大学3年の頃からは完全に女性としてメイクや服装も気を使って通学していたので、最近あった人は、私を完全に女性だと思って接している人もたくさんいます。自分でいうのも変かもしれませんがパス度はかなり高いほうだと思います。手術は終わってはいないですが。

就活がはじまりました。私は学生時代は接客のアルバイトをずっとやっており、人と話すのがかなり好きなので営業職を中心に就活をしています。
就活では、完全に女性として活動をしています。ESや履歴書の性別欄は女性ですし、面接時の格好も女性です。これまでの面接で、セクシュアリティについて何か怪訝な感じになったことはありません。
最終面接に進んだのは4社あって、そのうち3社で内定をいただきました。
ただ、内定後に自分の戸籍上は男性のトランスジェンダーであることを告げたところ、1社は「うちでは、ちょっと無理」と断られました。
1社は、ベンチャー企業でバリバリの営業会社っポイですが、そこは「全然気にしないよ」といってもらっています。あと1社は、内定取り消しが怖くてまだ言っていないです。いつかは言わないといけないのですが。。。

最終面接までいって内定がもらえなかった1社は、大手上場メーカーの子会社です。親会社はLGBTフレンドリーをHPなどでも発信している企業だったので、理解してもらえるかと思い、最終面接の前にずっとやり取りしている人事の担当者に電話をしました。
「うちは、Sさんの人柄をみて良いと思ってここまで選考を進んでもらっているから、セクシュアリティとか気にせず、最終面接では自分を出して頑張って!」と温かい言葉をもらい、最終面接に臨みました。しかし最終面接では役員の方から、「Sさんはとても良い人だけど、社内にはLGBTの人を理解できないという人もいる。同じトイレを使うのはイヤという声もあるので、Sさんにとってまだ働きやすい職場ではないかもしれない」と暗に辞退することを勧められてしまいました。

トランスジェンダーは就活に苦労するってホントなんですね。「全然気にしない!」って言ってくれているベンチャー企業にいくか、自分の本当にやりたいことができる企業をもう少し頑張って探すか迷っています。。。

Sさんは、自分で言う通り、誰からみても完全に“女性”でした。ただし手術は完全に終わっているわけではなく、戸籍変更はすぐにはできない状況です。

Sさんの話にでてきた上場会社の子会社では受け入れを検討して社内で他の社員に聞いてみたようです。それはアウティングになっていないか??という問題もあるのですが、それとは別に社内の一部の声をもって採用をやめたようです。

Sさんを採用した場合、戸籍上の男性として扱うのはパス度が高いために無理がある(トイレも、対顧客という意味でも)。一方で、いくらパス度が高くても戸籍が変わっていない以上、女性として受け入れられないという声があったようです。

企業によってはパス度が低いと、他の社員からの反対の声がでて採用を取りやめる企業もあります。

パス度が高いトランスジェンダーの場合でも、このように就職がうまくいかないケースはあります。

Sさんが最後に言っていました。「トランスジェンダーを受け入れてくれるかどうかではなく、自分のやりたいことができるかどうかで、企業選びをしたいです」