「カミングアウトをなぜするのですか?」「LGBT当事者はカミングアウトをしたいのですか?」

これらはLGBT研修をしていると聞かれることの多い質問です。

なぜカミングアウトをするのか?カミングアウトをしたいのか?これは人によって異なります。特にトランスジェンダーと性的指向ではその理由は大きく異なります。

LGBTダイバーシティを推進している企業でも、トランスジェンダーへの対応には目を向けやすいです。トランスジェンダーはトイレや服装など、目に見えやすいハードルが多いためカミングアウトの事例も多いですし、企業としても対応の必要性を感じやすいからです。

一方で性的指向の場合は、仕事と直接関係ない、ということでカミングアウトをするLGBT当事者も少ないですし、それに対応が必要と考える企業も少ないのが現状です。

今回は、「カミングアウトをして人生が変わった」と語るWさん(27歳 ゲイ)の話です。

僕は27歳のゲイです。男性が好きという自覚は中学生くらいのときからありました。同級生と女子の誰がかわいいとかの話をしていてもその話自体にはあまり関心がもてなかったです。でも、その話をしている同級生の男子と話をしていること自体が楽しかったのは覚えています。

高校生のときには自分は男性が好きなゲイであることははっきり自覚していました。ただ僕が育ったのは東北の田舎のほうなので、環境的にそういうことに理解のある感じはまったくなかったし、まわりにもLGBT当事者はいませんでした。だから家族はもちろん、友達も含めて誰にもカミングアウトをしたことはありませんでした。

大学を卒業して東京で就職しました。その会社で働き始めて3年目のときに中途で転職してきた人が凄い人でした。その人は入社して早々にゲイであることをフルオープンにしていました。それを聞いても、会社の同僚のほとんどは“普通”に付き合っているのにも驚きました。

初めて普通の生活の中でカミングアウトをしている人に出会ったのがきっかけで、僕もまずはその人に人生初のカミングアウトをしました。その人は『カミングアウトをすると世界が変わるよ』と言っていました。その時はピンとこなかったのですが、その後、少しずつ周りの人にカミングアウトを進めていくうちに、気持ちが軽くなっていく自分に気づきました。視界が晴れてくるような感じです。

「明るくなったね!」と何人かの同僚に言われました。気持ちだけでなく、実際に仕事に向き合う姿勢も変わった気がします。これまでにカミングアウトをした人は18人です。そろそろ数えられなくなりそうです。

LGBTの取り組みを進めて偏見や差別がなくなると、企業にとってどういうメリットがあるのか?というのは経営者の方は関心の高い部分です。実際によく聞かれます。
このWさんのようなモチベーションアップを数値化することは困難ですが、実際にこのように感じて仕事の成果も上がるようになるという声はよく聞きます。

ちなみにWさんは、今の職場は環境としては働きやすいけれど、自分自身のキャリアアップを考えると別の企業で新しい仕事にチャレンジしたいと言って転職活動を行っています。
もちろん、ゲイであることをカミングアウトしても偏見のないLGBTフレンドリー企業を探しています。