ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みというと、女性活躍や障がい者雇用という部分が、LGBTより先にくるという企業が多いです。これらは、法的な数値目標などもあり取り組まざるを得ないというのもあります。
基本的には、多くの人が働きやすくなる取り組みで良いと思いますが、その取り組みをきっかけに働きにくくなるというケースもあります。

今回は、就職して3年目で営業職として活躍しているYさん(25歳)からのご相談です。

私は25歳のFTMトランスジェンダーです。大学卒業して、大手のメーカーで営業職として勤務しています。自分のセクシュアリティについては小さいころから女性ということには違和感はありました。大学時代にはFTMというのをはっきり認識していました。

就活ではトランスジェンダーであることは一切カミングアウトしていません。ただホームページなどを見て少しでも理解のありそうな企業を中心に応募しました。私はいまは、ホルモン注射も含めてまだ何も治療はしていません。本当は男性として働きたいという気持ちはあるのですが、カミングアウトをしたら就職できないと思って、ずっとカミングアウトせずに働いてきました。

仕事は営業職です。私はいろんな人と話をするのはとても好きだし、私の提案した商品を設置していただいて、導入企業様から感謝の言葉をいただけるととても嬉しいです。最初の1年は夢中で仕事をしていました。

うちの会社は入社してみると大手だから?か古い社風もけっこう残っていて、女性の営業職はほとんどいません。私が仕事で頑張って少しずつ成果をだしていくと、女性営業職のロールモデルのような形で、社内報などに取り上げられるようになりました。褒めていただけるのは嬉しいのですが、“女性初”などの形容がついてくるのが気になります。
新卒採用の説明会などでも、“活躍している女性社員”として話をしたということもありました。

私は営業職をやりたいだけで、“女性として”というのはいらないんです。

本当は自分がFTMトランスジェンダーであることをカミングアウトをしたほうが良いのかもしれません。
人事部に相談窓口があります。一応、LGBTも相談可となっています。でもここに相談すればどんな反応をされるか正直不安です。
女性として入社しているので周りは混乱するだろうし。男性として働きたいといったら、部署異動になるかもしれません。そうしたら今までお付き合いのあるお客様との関係も切られてしまいます。
またカミングアウトをした場合にその情報は人事部内だけで外にはでない、といわれても、人事部には私の同期もいるので知られたくないです。

カミングアウトをすべきか、諦めて転職するか悩んでいます。

この企業の職場の雰囲気についてYさんに聞いてみました。大手企業だけあって最近はLGBT取り組みを開始しており、人事部研修や、管理職向けの研修はやっているそうです。また社内にも一応相談窓口はあるそうです。

このケースは、企業としては“女性として”のYさんの活躍を前向きにとらえているのですが、実際には本人の気持ちとギャップが生じしています。どんな働き方をしたいか、どう取り扱われたいかは、LGBTかどうかにかかわらず、人それぞれです。大事なことは相談できる環境があるかということだと思います。