書籍概要

『カミングアウト』

文化人類学者であり、ゲイをカミングアウトして東京レインボープライドの前身で実行院長を務めるなどの活躍している砂川秀樹さんが、カミングアウトに絞ってまとめている書籍です。「LGBTって周りにいないし、遠い世界の話」と思っている人も「基礎知識はあるのでもっと知りたい!」という人にも幅広くおススメできる一冊です。

『なんでLGBTの人、特に性的指向の人はカミングアウトをするんですか?』『できれば職場ではカミングアウトをしないでほしい』このような声を聞くことがときどきあります。そんな問いへの回答が詰まっている書籍です。著者の文化人類学者としての考察・ゲイ当事者としての経験だけでなく、多くのカミングアウトストーリーが盛り込まれています。LGBT当事者・非当事者に関わらず、ちゃんと読むと随所に気づきがある良書です。

印象的なコンテンツ

『カミングアウトは、伝える側と伝えられた側との関係が作り直される行為だ、いや作り直される行為の始まり、というほうが正しいだろう。』(3ページ)

本書の冒頭の書き出しです。カミングアウトをどう意味づけるか?単に事実を伝えるということではなく、自分と相手の関係性を変える行為であり、しかもそれはカミングアウトをしたらすぐに完了するものではなく、カミングアウトを起点として再度、構築が始まるという考え方です。

『文化人類学者という立場では、嗜好と志向と指向は明確に区別して線引きすることはできないと考えている。すべてをひっくるめて「性的しこう」として書くのが一番いいのかもしれない』(42頁)。

“しこう”という漢字についてはいろいろな意見がありますが、著書は明確な線引きができないとしています。ただし、“しこう”と書くのであれば、異性愛も同じく「性的しこう」になるとしています。

他の“性的嗜好”との違いは、性別が社会の中で制度上も人々の意識上も非常に重要な違いがあるからと言っています。ここは本文で詳細に書いてあるので是非、実際に読んでみてください。

『娘のまえが私にカミングアウトをしたのは、彼女が20歳の時・・・』(140頁)。

本書ではカミングアウトストーリーが8つ収められていますが、中にはカミングアウトをされた側のストーリーもあり、これもその一つです。カミングアウトを実際にされるとどう感じるのか?もちろん、感じ方は人それぞれですがリアルな体験が載っています。

感じたこと

よくある誤解として、「初めて会ったようなよく知らない人より、身近な人のほうがカミングアウトしやすい」というものがあります。自分のことを知ってほしいという気持ち(≒本書でいう自己肯定感)という意味では、身近な人のほうがカミングアウトをしたい、知ってほしいという気持ちが強い人は多いと思います。

本書でとりあげるカミングアウトの事例や前提は、このような身近な家族や友人など親しい関係性におけるカミングアウトがメインです。

しかし、初めて会った人だからこそ関係性の“再構築”ではない分、カミングアウトをしやすいという人も多いです。家族間でのカミングアウトと職場における特に上司部下の関係や、人事部へのカミングアウトはこれらとは少し状況も目的も違うので、そこは考慮して読む必要があります。

本書では、カミングアウトといってもレズビアンとゲイに絞っており、トランスジェンダーやバイセクシャルという属性のカミングアウトは除外しています(状況が違うため)。しかしトランスジェンダーもバイセクシャルも含めて、LGBT当事者と、非当事者の違いを考えるうえでは、カミングアウトという考え方やハードルというものが非常に重要になります。

LGBT非当事者の多くは、セクシュアリティに関してクローゼットではないので、カミングアウトという感覚がわかりにくいのだと思います。本書は、そんなLGBT非当事者がLGBT当事者を理解する重要な一助になりえる書籍です。おススメです。