今回ご紹介するのは、50歳になり、これからMTFトランスジェンダーとして性別移行をしていこうと考えているTさんのお話です。

50年間、社会的には男性として生きてきたTさんがこれまで何を考えていたのか、このタイミングで性別移行に向かうことのハードルなどの実体験を話してくれました。

私は、50歳のMTFトランスジェンダーです。トランスジェンダーといっても見た目は、完全におっさんです。それでも、自分の中では“女性”という認識があり、これからは女性として生きていきたいと思っています。

自分の中で性別に違和を感じたのは小学校の時が最初だと思います。ただそのころは性同一性障害という言葉すらなく、女っぽい男の子という感覚でした。大学で東京に出て、いろんな人に出会う機会があり、その中でトランスジェンダーかもしれないと思うようになりました。
社会人になったときには、東京で法人営業をしていました。バブルの終り頃だったので、まだまだイケイケな感じも残っており、“男”として一生懸命働いていました。

30歳になったときに、地元にいた両親の面倒を見る必要がでて宮城に引っ越してきました。そこで今の会社に入りました。入社したときには、まだ創業したばかりのベンチャー企業でした。そこから20年、営業一筋で、社長と力をあわせて中堅企業レベルまで会社を大きくしてきました。今では営業担当取締役という肩書ももらっています。

男という性別にはずっと違和感がありながらも、宮城という田舎で周りの理解もなく、また両親にもカミングアウトをできそうな雰囲気は全くなかったです。だから性別に関しては自分の心の中だけに閉じ込めて、男として働いてきました。

3年前に病気で続けて親が二人とも亡くなりました。長男として親の面倒は見てきたけれど、それがなくなったからこそ、残りの人生を自分らしく生きたいというのが今の気持ちです。

今の会社の社長に、性同一性障害であり、女としていきたい!ということを話しました。社長は性同一性障害の知識がなかったし、私のこともずっと一緒に働いていたからこそ最初はかなり驚いていました。それでも『女性として働ける方法を考えるから、一緒に頑張っていこう!』といってくれました。その気持ちに嘘はないと思いますし、自分を受け入れてくれてとても嬉しかったです。ただ一方で、社員のみんながどう思うか?ちゃんとこれまで通り指示して組織が動かせるか?と考えると、そこは難しいのではないか、と感じています。
この会社で20年働いてきて、一定の形まで作れたという自負もあります。だからこそこれを機に、まったく違う環境で働いてみようと思います。

3年前に両親が亡くなってから、メンタルクリニックで性同一性障害の診断をとりました。今年に入ってからホルモン治療も開始しています。この年なのでどの程度、パス度があがるかわかりませんし、手術に身体がついてくるかわかりませんが、できれば性別移行までしたいと考えています。

相談者の中には、どういう人生を生きていけば良いか悩んでいる真っ最中の人もたくさんいます。しかしTさんは、自分でずっと考えてきて、決断をしたあとなので、とてもすっきりした表情で前向きに話をしてくれました。
今後は、お給料が下がっても、ゆっくりと変化していく自分の容姿を会社として&職場として受け入れてくれる仕事を探したい、と話していました。