経済産業省で働く性同一性障害の女性(戸籍上は男性)が、職場で自認する女性用トイレの使用を認めないのは不合理な差別だとして、国に処遇改善と損害賠償を求めていた裁判の判決が2019年12月12日に東京地裁でありました。東京地裁は、女性用トイレの使用を認めないとした国の措置を取消し、国に130万円の賠償を命じました。
LGBTの職場環境改善に関しては、日本では初の判例ということもあり大変注目されています。
訴えていたのは、50代のMTFトランスジェンダーの職員。職場でも女性として働いていたのですが、女性用トイレの使用に関しては2フロア以上離れたトイレを使うように言われており、それに対して女性用トイレの使用を求めて裁判を起こしていました。
今回の判決の要旨です。
「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益である。トイレは人の生理的作用に伴って必ず使用しなければならない施設であり、自認する性別に対応するトイレの使用を制限されることは重要な法的利益の制約に当たる。長年にわたる生物学的な性別に基づく男女の区別を考慮すれば、女性職員への相応の配慮は必要で、日本において必ずしも自認する性別のトイレの利用が画一的に認められているとまでは言いがたい状況にある。しかし、このような事情から直ちに性同一性障害の職員に対して、自認する性別のトイレ使用を制限することは許容されず、その当否は、当該職員の具体的な事情や、社会的な状況の変化などを踏まえて判断する必要がある。」
つまり、トイレの使用は戸籍上の性別を絶対的な基準とするのではない、ということが明示されました。
同時に、“当該職員の具体的な事情”を踏まえて判断するということです。
では、どんな場合には戸籍上の性別と異なるトイレの使用が認められるのでしょうか?
判決ではその条件を明確にはしていませんが、ポイントになりそうなのは以下の点です。
①性同一性障害の診断を受けていた
②健康上の理由で性別適合手術を受けられなかった
③プライベートは女性として過ごしていた
④職場でも服装やメイクなど女性として勤務していた
⑤離れたフロアの女性用トイレの使用は認められていた
僕がいろいろな企業でのトイレの可否の事例を見ていると、トランスジェンダーが自認する性別のトイレの利用を否定される理由として多いのは「トイレは身体の性別によって利用するという社会通念がある」「他の女性から抵抗感を示す声があった」の二つです。
社会通念を理由にする場合には、①②を基準に判断するという考えはほぼないです。当然⑤が認められるケースもありません。
他の女性からの抵抗感に関しては、MTFトランスジェンダーの場合にはとても多い理由になります。現実的には企業の判断としてパス度などもかなり影響しています。
今回の判決が、企業の取り組みにどのような影響を与えるでしょうか?
戸籍性のトイレの強要がどこまで認められるのか明確な判断基準が示されていない以上、企業としては戸惑いもあるでしょうし、コンプライアンスを意識するとある程度は広めに対処をしようという企業も増えてくると思います。
今回の判決を受けて、
・誰でもトイレの新設
・トランスジェンダーの移行時のマニュアルの整備
・相談窓口の設置
というような具体的な取り組みを検討し始めている企業もあります。
一方で、判決を御旗のようにかざすと、採用時にトランスジェンダーの採用を避けようという動きがでてくる可能性もあります。
※採用現場ではトランスジェンダーという理由で採用を避けようとする企業はかなり多いのが実態です。
少なくとも、トランスジェンダーのトイレを“社会通念”という固定観念で画一的に取り扱うことは認められないことが明確になりました。
判決がでたからではなく、一人ひとりが働きやすい職場づくりという視点で、改めて取り組みを見直し、社員の理解を深め抵抗感をやわらげ、できるだけ本人も周りも働きやすい環境づくりを進めていくことが大切になります。