転職においては、やはりゲイやレズビアンなど性的指向の当事者よりトランスジェンダー当事者のほうが難しさがあるのが現実です。トランスジェンダー当事者ははたらく上で希望事項が具体的にあるケースが多いので、それに企業側が対応できるかが大きなポイントです。
今回ご紹介するTさんは、男性として働ける職場をさがして転職活動をしていました。ある大手のLGBTフレンドリー企業での体験を話してくれました。大企業ならではの難しさを感じた事例です。
僕は25歳のFTMトランスジェンダーです。大学を卒業して2年ほどアパレル業界で正社員として働いていました。いろんなお客さんと話をするのが好きだったので接客業はとても楽しかったです。もともと神戸出身で神戸で働いていたのですが、東京にでてきたかったので東京で転職活動をしました。
セクシュアリティとしては、小さい時から“女の子”には違和感があって、男の子とばかり遊んでいましたし、学校で女子の制服を着ることはとても嫌でした。
中学生のときには、インターネットで性同一性障害とかトランスジェンダーという言葉を知って、そのときからトランスジェンダーを自認しています。大学生の時からホルモン治療を始めており、今で4年ほど続けています。また胸オペは完了している状態です。見た目的には男性として見られることが圧倒的に多いです。ただ名前はまだ改名できずに、戸籍上の“女の子っぽい名前”のままです。
東京で転職活動を始める際にも、戸籍は女性ですが男性として働きたかったので、セクシュアリティに理解のある企業を選んで応募をしていました。その中でPRIDE指標などもとり、HP上でもLGBTの取り組みを詳しく書いている企業があり、接客経験がいかせるということもあり応募をしました。
応募にあたっては、履歴書の性別欄は空欄にして、備考欄に戸籍性と性同一性障害であること、男性として働きたいということを書きました。
一次面接では、これまでの経験や今後やりたいこと、志望動機など一般的な面接で聞かれそうなことを聞かれました。最後に時間があったので、自分のセクシュアリティについて聞いてみたところ「うちは、そういうことを気にしないから大丈夫だよ」という言葉をいただきました。二次面接は人事のマネージャーとの面接でした。一般的な質問のあとに、セクシュアリティに関する働き方の希望を聞かれたので、服装やトイレ、更衣室、通称名などの希望を話しました。
二次面接が本来は、最終面接のはずだったのですが、後日、呼ばれたのでいくと人事部長との面談でした。そこではセクシュアリティの話をされました。服装、トイレ、更衣室はOKだけれど、通称名はシステム上対応できないとのことでした。そのため現場でのシフト表などは戸籍上のフルネームがでてしまい通称名は使えないということでした。通称名の使用を望むのであれば、採用は難しいと言われました。
トランスジェンダーにとって、通称名の使用はカミングアウトと密接に関係する場合があります。結婚した人の旧姓使用と似たようなものといわれることもありますが、実際にはかなり異なります。
中小企業ですと社員名簿はエクセル管理というところもたくさんありますが、Tさんが応募したこの企業のような大企業ではシステム上対応できないという事例はしばしばあります。ではどうするのがいいのがいいでしょうか?
Tさんとしては、仕事内容などを含めてこの企業で働きたかったのでどうするか悩んでいました。Tさんから話を聞いて、僕もこの企業の人事担当者とも直接話をしました。企業としてもなんとか入社してほしいということだったので、何ができるか相談をしました。最終的には、配属当初は店舗では全員にカミングアウトをして働く、今後のシステム改修の際には通称名対応ができるように取り組んでいくということになりました。
今回はTさんがカミングアウトをするという選択肢を選びましたが、他の大手企業ではシステム上の社員名簿(マスター)は対応できないけれど、個別にエクセル対応をしている事例もあります。エクセル対応は例外対応で手間がかかりますしミスもおきやすいですが、実際、このような形での通称名の使用希望は少ないので、まずはできることからやる!という判断でその企業ではエクセル対応をしています。
このようにトランスジェンダーの働き方対応は、本人の希望もさまざまなので何ができるか?できる方法はないか?という観点で考えていくことが大切です。