職場でカミングアウトをしているLGBT当事者は5%程度という調査結果があります。職場でのカミングアウトと言っても範囲もいろいろですが、ほとんどの当事者が職場ではカミングアウトをしていないのが現状です。
職場でカミングアウトをしないのは、カミングアウトをしたいけれどできない、そもそもカミングアウトを望んでいないなどいくつか理由はあります。

カミングアウトを望んでいないという方はどのような理由なのでしょうか?

今回は、職場では誰にもカミングアウトをしていないSさんにお話をお聞きしました。

僕は、現在34歳で法人向け営業職として働いています。大学を卒業して最初の会社は比較的すぐに辞めてしまったのですが、今の会社では10年目になります。

セクシュアリティはゲイで、パートナーはいて一緒に暮らしています。でも社内では誰にもカミングアウトはしていません。うちの会社は比較的若い人が多く、自由な社風です。あまり他人のプライベートを詮索する人はいません。もちろん、こういう年齢なので、飲み会の席上では、『Sさん、結婚しないの?』みたいなことを聞かれたことはあります。そういうときには『あんまり結婚ってイメージできないんですよね』って答えています。実際、同居はしていますが、結婚というものはあまりピンときていないです。

実はうちの会社の中にゲイをオープンにしている同僚もいます。その人はセクシュアリティに関することはアイデンティティだからこそ自分のことを知ってほしい、理解してほしいという気持ちがあって職場でもカミングアウトをしています。周りの同僚も特に違和感もなく受け入れています。その同僚の気持ちもわかりますが、僕にとってはセクシュアリティはアイデンティティの一部ではありますが、それ以外の部分も自分自身なのでそこを知ってもらえれば十分という感覚です。

カミングアウトをしていないから、そういう意味では同僚に隠し事をしているとも言えますが、自分の中では嘘をついているという感覚はあまりないです。実は僕の両親は僕が小さいときに離婚していますが、そういうことだって会社の同僚には話していません。セクシュアリティに限らず、話す必要がないという感覚ですね。

ただ仕事上はルート営業なので、クライアントと密な関係性が求められます。ときにはクラブなど女性が接待してくれるお店にいくこともあります。もちろん異性愛の人みたいに女性にモテたい!とかはないですけれど、そういう店で女性と話をすること自体は楽しいですよ。大変な部分に関しては仕事だと思って割り切っている感じですね。同僚の中には、そもそもお酒が全くダメという人もいて、そんな人に比べればまだいいかなとも思ったりします。

今、LGBTがよく話題になり、フレンドリー企業が増えていると聞きます。そういう動きは良いとは思いますが、私個人のことでいえば、別にパートナーシップ制度などは特になくても構わないです。

職場でカミングアウトをしない理由として、周りの理解が得られないという人もいますが、一方でこのSさんのようにそもそもカミングアウトをしたいと思わない(必要でない)という人もいます。

Sさんは、実は大学卒業後に最初に入社した会社はすぐに辞めています。セクシュアリティに関しての差別があったわけではないのですが、働きにくいと感じたそうです。Sさんは『いろいろな価値観を理解できない、認められないという職場では、セクシュアリティと関係なく働きにくいと感じました』と話していました。今の職場はLGBTの知識が特別あるわけではないですが、『いろんな人の個性を認める職場』なので働きやすいそうです。