『自分らしく働くLGBTの就活・転職の不安が解消する本』
就活に関するマニュアル本は数多く出版されていますが、本書はその中でもLGBTの就活生(と転職者)に絞って書かれている本です。
「JobRainbow」というLGBT向けに特化した公開型求人サイトを運営している星賢人さんが、自分自身の経験や求人サイトを運営して蓄積した経験をもとにして書かれているため、就活や面接の現場感のある書籍になっています。
LGBT就活生・転職者がメインの読者ターゲットですが、企業で採用やダイバーシティ&インクルージョンを担当する部署のかたにとっても参考になる記載が多いかと思います。
LGBT就活・転職者の気持ちを知りたいという方におすすめの一冊です。
書籍概要
「カミングアウトをするべきか?」「ダイバーシティな企業を選ぶべきか?」といった企業選びの軸づくりから、エントリーシートや面接での対策にいたるまで就活生・転職職が迷いやすい内容が網羅されています。本書の内容の大半はLGBTという特性に関わらず、すべての就活生・転職者に当てはまるものですが、残り部分がLGBTならではという内容になっています。
印象的なコンテンツ
セクシュアリティにとらわれない身だしなみとビジネスマナー(P22)
『「自分らしく働く」ことと「自分の理想のままに働く」ことは別の話です』
『身だしなみもコミュニケーションのひとつ』
“自分らしく働く”という言葉はLGBT就活生・転職者の中でとてもよくつかわれます。人によっては、自分の理想を追いすぎてしまう人もいます。ただ身だしなみは、自分のためにするのではなく、相手があって、コミュニケーションのひとつであるという大切な考えをまず紹介しています。そのえで、スーツの着こなしをMtFのスタイル、FtMのスタイル、Xジェンダーのスタイルのように区分してイラストを掲載しております。
LGBTフレンドリー企業の採用担当の方にとっては、LGBT就活生・転職者のスーツの正装の参考になるかと思います。
カミングアウトをする場合は、必ずゾーニングを確認する(P145)
『事前に知られてもよい範囲を自分で決めておくことが望ましいでしょう』
『社内ではどこまで情報共有されているのか?入社するにあたり、どこまで情報共有する必要があるのか?』
カミングアウトの範囲(ゾーニング)はとても重要な確認事項です。カミングアウトの範囲を決める場合には、原則としては、本人の希望・意思がもっとも尊重されるべきですし、本人の意思を無視して第三者にセクシュアリティについて伝えてしまうのはアウティングにあたるので要注意です。
一方で、本人もカミングアウトの範囲の希望が分からないことも多くあります。その企業の組織体制(必要性や人数、異動の頻度など)がどうなっているのか?仕事の内容は?研修や出張などはどうなっているのか?職場の理解度はどうなのか?このようなことが分からない中では、カミングアウトの範囲をどこまでにするのがいいのか本人も分からないケースが多いです。実際の仕事の内容や現場の状況を伝えたうえで、カミングアウトの範囲を相談することが実務的には大切です。
感じたこと
人事部などにカミングアウトをして働くという人はトランスジェンダーが多いです。ゲイやレズビアン、バイセクシュアルの当事者は就職時にはカミングアウトをしなければ、困ることはないと考える人も多いです。しかし、そのような人も実際に働いてみると、職場では『何気ない日々のコミュニケーションがストレスに直結(P162)』という現実に気付くことになります。
LGBTといってもセクシュアリティの属性によっても、またその個人によっても、就職時・勤務時に感じる働きにくさは違います。
本書を、LGBT就活生・転職者の気持ちを少しでも知る参考にしてみてください。