『罪の声』や『盤上のアルファ』などの作品で知られる塩田武士さんが書いたトランスジェンダー女性の24年間にわたる半生を描いた物語です。

この本が発売されたのが、「性同一性障害特例法」が施行されて約10年経過した2014年。“翔太郎”として生まれた人間が、本来の性の“蘭”を取り戻していく過程を丁寧に描いています。

トランスジェンダーを主人公にした書籍はいくつもありますが、自分の体験談でもなく、ルポルタージュでもなく、物語として書いている点が特徴的です。しかも昭和の終わりから平成にかけての時代背景をしっかり描き込むことで、トランスジェンダーを含むLGBTを取り囲む社会の変遷を意識させる点もかなり特徴的と言えます。

もちろん、小説なので、ストーリーは展開していくので、読むほどにページをめくる手は止まらなくなり、伏線回収にすっきりし、ラストにはびっくりするエンディングが待っています。シリアスになりがちなテーマですが、読後、明るい気持ちになれます。

おすすめの一冊です。今回はネタバレなしで書いていますので安心して読んでください。

書籍概要

小学四年の春、同じクラスになった真壁君の顔を見たとき、翔太郎は恋のきらめきと痛みを知った。小さな希望すらも打ち砕かれる人生。仮面の下、ずっと女の子になりたかった――。終章、二十四年後の春に明かされる優しく美しい秘密とは。生きてゆくことの切なさに共感せずにはいられない感動の青春恋愛小説。

印象的なテーマ

『これから毎日、ドレスを着たい。心の底からそう思ったから、ファスナーを下すとき、今度は悲しくて泣きそうになった。』

写真屋のおじさんの勘違いで、4歳の“男の子”の翔太郎が、モデルとなって女の子のドレスをきてメイクをして写真を撮ってもらうシーン。この瞬間が翔太郎にとっては夢のような世界でした。

『ゲイって男の人を好きになること?』

高校3年生の翔太郎が父親に無理やり風俗に連れてこられて、そこで出会った茜との会話。このとき茜にゲイとかニューハーフという言葉を言われて、自分のセクシュアリティを改めて客観視し、ラベルをつけることで自分のセクシュアリティを受け入れた瞬間のようです。初対面だからこそ茜には自分のことをすべてカミングアウトでき、そこから茜とは長い長い親友としての付き合いが始まります。人間関係を築くうえで自分をちゃんとさらけ出せるということがいかに大切かがよくわかります。

『中途半端やと思ってるやろ?』

蘭として働き始めたゲイバーの先輩が、お店では完全に“女性”なのに、実は結婚をしていて子供も一緒にいるところに偶然出会ったシーンで、先輩から蘭が言われたセリフ。

性別適合手術は、不可逆的手術なので後戻りができません。だからこそ“覚悟”という言葉が何度かでてきます。蘭は自分なりに覚悟を決めていたつもりでも、いろんな人の生き様をみて、幸せとは何かを考え、自分の生き方に悩みます。

国内での性別適合手術がニュースになり、性同一性障害特例法の制定などが同じころニュースになります。蘭の心は揺れます。

『めっちゃ変わったなぁ』『いや、白水にいわれたないわ』

初恋の相手でずーっと好きだった男の子の結婚式に呼ばれて、家出以来、ずっと会っていなかった中学の同級生との会話。白水翔太郎⇒白水蘭へと大きく見た目が変化している主人公が、同級生に暖かく受け入れられます。

主人公は、いじめなども受けるし、父親から勘当同然で追い出されるなど大変なことも多かったです。しかし、姉や茜やお店のママなど理解者が周りにたくさんいることで、自分を信じ大切にしながら育っていきます。

感じたこと

本書は、青春恋愛小説ということになっています。最初から最後までを通じて、主人公の初恋の人、真壁君が重要な存在として描かれています。恋愛小説が好きな人は、切なさに胸が苦しくなるかもしれませんし、この本の続きを想像したくなるかもしれません。

24年間という長期間にわたる半生が丁寧に描かれているので、読者も翔太郎=蘭の人生を追体験することができます。追体験をしたからといって、欄の気持ちが理解できるということではないと思います。ただ何かを感じることはできるのではないでしょうか。トランスジェンダーの人にあったことがないという方にも、おすすめです。