トランスジェンダーの就活生は、LGBTの中でも特に就職に悩み苦労するケースが多いです。しかしトランスジェンダーといっても人それぞれ違うので、苦労するポイントも違えば、どのような対応をすべきかというのも異なります。

今回は、2021年3月に大学を卒業して、4月から新社会人として働いているFTMトランスジェンダーのKさんからお話を聞きました。
Kさんが就活の中で、カミングアウトを強制された、という体験談です。

私はFTMトランスジェンダーです。小さいころから、女性という感覚はなく、なぜ自分がいろんな場面で女性に割り当てられるのか?という疑問をずっと感じていました。母は小さい時から私をみていて、なにか違うと感じていたようで、中学生の時に母から性別について聞かれて、いろいろ話しました。そのあとは、自分のなかでもトランスジェンダーであるという自覚がはっきりしてきて、大学のときは、ほぼ男子として生活をしていました。

私は、身長が172cmあるので、高校時代から短髪にしてメンズの服をきて買い物とかしていると、女子に見られることはほぼなかったです。大学時代にはホルモン治療をはじめて声も低くなり、胸オペも済ませていたので、ほとんどの友人が男子だと思っていると思います。友人へのカミングアウトを基本的にしていません。大学時代には、近くの居酒屋で4年間バイトをしていましたが、このときも男子として働いていました。店長を含めて誰も私が女性だとは思っていなかったです。

就活を始めるときに考えたのは、経済学部に通っていたのもあり、金融系でメンズスーツをきてバリバリ働きたいということです。いつか戸籍の性別変更もしたいので、男性として働きたい!というのは強いです。男子にしか見られないので、できる限りカミングアウトはしたくないとも思っていました。

私も何社も応募しましたが、全部、履歴書やエントリーシートには性別欄がないか記載しないで応募しました。履歴書に性別欄がある企業は応募をためらったというのもあります。
実際、選考が進むと、面接でもバレることはありませんでした。コロナもあってオンラインでの面接が多かったのも関係あるかもしれません。
結局2社内定をもらい、そのうちの1社に入社を決めました。

内定式がオンラインであったのですが、その際に卒業見込み証明書の提出が求められました。大学に発行をしてもらったのですが、そこには性別が“女”としてはっきり書かれていました。企業にはまったくカミングアウトをしていなかったし、できるだけカミングアウトをせずに働きたいと思っていたので大学のキャリアセンターに初めてカミングアウトをして相談をしました。しかし、結局、性別欄を外すことはできない、ということでした。

仕方なく、一番よく話していた人事のひとにカミングアウトをしました。完全に男だと思われていたようで、とても驚かれました。そのあと人事部長に呼ばれて個別で面談をしました。
その企業としては、トランスジェンダーであっても特に差別はしないということだったので、改めてどういう働き方をしたいのかということを話しました。
そこではじめて知ったのですが、卒業見込み証明書だけでなく、入社の際には健康診断やら税金とか社会保険とかもあるので必ず戸籍性を伝える必要があるとのことでした。
居酒屋のバイトではそんなことは言われなかったので知らなかったのですが、正社員で働く場合には少なくとも人事にはカミングアウトは必須でした。
自分としては、“女”という戸籍性を早く消したい、と思って“男”として生きてきたのですが、実際には完全に消すのはなかなか難しいというのがよくわかりました。

ただこの企業は理解があって、カミングアウトの範囲は最小限にしてくれて、職場の同僚に性別がわかることがないように最大限、配慮してくれるとのことなので、それはとても助かっています。

今は入社して1か月ほどで、オンラインでの研修がメインです。正直、性別云々ではなく、いろいろ覚えることが大変、という感じです。早くメンズスーツをきてバリバリ働けるようになりたいです。

Kさんは背も高く誰からも“男”に見えるトランスジェンダーだからこそ、カミングアウトをしないということに強いこだわりを持っていたのですが、入社にあたっては最低限のカミングアウトは基本的に必要になります。

最後に、Kさんがこう言っていました。「保険とか年金とかを考えると、社会全体の問題なので、企業が理解しているかどうかとは関係なく、結局、カミングアウトを強制させられちゃう感じがしますね。」