トランスジェンダーで戸籍変更を考えている人の場合、自認の性別で働きたいという方が多くいます。
ただし、自認の性別で働きたくてもいろんな事情で断念せざるを得ない場合もあります。

今回は、職場は理解があり自認の性別で働きやすい環境なのですが、社会的な表現としては男性らしさを残したまま、トランスジェンダーとして働くAさんのケースをご紹介します。

今の会社には5年前に中途で入社しました。当時25歳で、今年30歳になります。戸籍は男性なのですが、小さい時から、自分の性別には違和感がありました。小さいときは女の子とよく遊んでいたし、姉のドレスを着るのが楽しかったりしました。

ただ、小学校の途中からは、なんとなく、そういうのは良くないものだと思うようになり、自分の気持ちを抑えてきました。大学時代には、実家をでて一人暮らしをしていたのですが、そのとき、友達とふざけて女装とメイクをしたのですが、それから気持ちが抑えられなくなり、家の中で一人で女装をするようになりました。

新卒で入社した会社では、男性として働いていたのですが、やはり男性として見られることに苦しさを感じて、2年ほどで退職をしてしまいました。男性として働くことの辛さもあったし、隠していることのストレスもあって、周りとあまりうまくコミュニケーションをとれていなかった気がします。

中途で今の会社に入ったのですが、入社の面接時にMTFトランスジェンダーであることをカミングアウトをしました。うちの会社ではカミングアウトして入社したトランスジェンダーは初なので、たぶん最初は戸惑いもあったと思うのですが、基本的には私の希望を聞いてもらえるということでした。

入社時には、私もまだ男性としての社会経験しかなく、治療も全くやっていなかったので、まずは社内でも男性として働きながら、クリニックに通いホルモンも始めました。ホルモンを始めて、体つきも変わってきて胸とかもでてきたので、しばらくしてから女性として働きたいということを相談したら、基本的にOKということでした。具体的には、服装や髪形、メイクなどすべて女性としてでOK、通称名も税金とか以外の社内で使う分には名刺も含めて使用可能という形です。

それを機に、女性らしい格好で働くようになりました。周りの同僚は入社時からトランスジェンダーであることを伝えてあったのもあり、最初はちょっと物珍しそうにしていましたが、ほぼ変わることなく、同じように接してくれていて、とても楽に働けています。

しばらくこのような形で働いていたのですが、通勤時などに女装をしているとジロジロみられるというのが何度もありました。私は、身長が181cmあり、もともと骨格もがっちりしているほうなので、どうしても他人から見ると女性に見えない部分が残ってしまっているみたいです。女性らしくと思って、ホルモンだけでなく、メイクや服装もスクールで習ったり、自分でもいろいろ研究して工夫をしたのですが、難しかったです。

結局、ジロジロみられるというストレスのほうが大きい気がして、今では、気持ちは女性ですが、見た目は男性的?中性的?な形で働いています。職場では、見た目は男性的だけれど、気持ちは女性のトランスジェンダーとして働いています。みんながちゃんと理解してくれているかはわからないですが、私個人を見てくれている感じがしていて、働きやすいです。

自認の性別で、暮らしたい、働きたい、と思っているトランスジェンダーの人であっても、周囲の人から認められないと、別のストレスがかかるため、なかなか自認の性別で働くのが難しいというケースがあります。

Aさんの場合は、職場の同僚は長い付き合いの中でAさん個人を理解し向き合っているので、Aさんの外見などにかかわらず同じような付き合い方をしてくれているとのことでした。
ここは、社会全体の理解度の問題もあり、企業単体でできることは限られていますが、それでも職場での心理的安全性が確保されているというのはAさんにとってはとても大切なことだそうです。