LGBTの働きにくさなどを考える際に、アウティングという問題はとても重要です。昨年施行されたパワハラ防止法でも「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」(≒アウティング)はパワハラに該当する可能性がある事例として明記されています。このパワハラ防止法の施行もあり、大企業を中心にアウティングに関しては意識が高まってきつつあります。

一方で、現実的にはアウティングの被害というのも依然として少なくないように思われます。またLGBT当事者の中でもアウティング(及びカミングアウト)に関する捉え方も違いますし、当事者と非当事者ではかなり意識の違いあるかと感じます。

今回は、内定時に同期にカミングアウトをした結果、アウティングにあったというTさんの事例をご紹介します。

私は、大学を卒業して一昨年4月に新卒で現職に入社しました。私は戸籍男性で性的指向も男性のゲイになります。自分のセクシュアリティに関しては、学生時代は特に隠そうとかしていなかったので、周りの友人には聞かれれば答えるという感じでした。ただゲイだといっても友人たちもそれほど驚くこともなくそのまま受け入れてくれていました。

今の会社は同期が40人くらいいます。入社前に内定者だけ集められて一緒に商品企画のプロジェクトをやっていました。自分のチームメンバーとはけっこう仲良くなりました。居酒屋で打ち上げをしたのですが、そこでけっこう盛り上がっていた時に、同じチームメンバーと恋愛話になり、自分のことを聞かれたので、男性のパートナーがいることを伝えました。チームメンバーはそこでは3人いました。その話はそこで終わったのですが、入社した後に別の同期から、「ゲイってホント?」って聞かれてびっくりしました。いつの間にか同期全員が知っていたようです。

いろいろ聞いてみたところ、内定時のチームメンバーの一人(Aさん)がしゃべっていたことが分かりました。実際、誰が知っているのか?みんな私の知らないところでどんな風に噂しているのか?と、とても気になり、かなり不安で落ち着かなくなり仕事にも気持ちが入らなくなっていきました。悩んだ末に、配属されていた部署の上司に相談をしてみました。Aさんも同じ部署だったので上司が話をしてくれることになりました。

あとで上司から聞いたところ、Aさんは、悪いことをしたとは全然思っていなくて、私がセクシュアリティにオープンで隠していないと思っていたとのことでした。その説明を聞いても私としては気にはなっていたのですが、上司がすごく理解があり、まったく変わらず接してくれたのでそれは気が楽になりました。

結局、あれから2年が経ちますが、今では職場のみんなが私はゲイだと知っています。ただ、からかうようなことを言われたり、差別されたりは全然なく、私も普通にパートナーの話とかもしています。最初はアウティングという形で、すごく嫌だったのですが、結果的には隠すものがなくなって働きやすくなりました。

今、振り返ると私も悪かったと思います。飲み会の席でカミングアウトをしたし、ほかの人には言わないでほしいとかも伝えていなかったので、ノリで軽く話したと思われたのかもしれません。ただ、私の場合はアウティングも結果的にはうまく収まりましたが、そうでないケースのほうが圧倒的に多いと思うので、アウティングはしないでほしいですね。

このTさんの事例では、入社前の内定者という段階でのアウティングです。雇用契約はまだないものの、内定者イベントの中での出来事であり企業としても一定の責任があるかと思います。今回のアウティングもAさんが最初の一人ですが、内定者全員に広まる過程では、何人もの人がアウティングをしています。今後は、内定者や新入社員などにも研修をして、知識だけでなく会社としての方針や姿勢というのを伝えることは、とても重要になってくるかと思います。