「恋せぬふたり」
LGBTをテーマにしたドラマが増えています。NHKでは2018年に「女子的生活」でMTFトランスジェンダーをテーマに、また「弟の夫」というゲイをテーマにしたドラマを放送し、2019年には「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」というゲイの高校生のドラマを放送しています。そして2022年に「恋せぬふたり」というアロマンティック・アセクシュアルをテーマにしたドラマを放送しています(2022年1月10日スタート、全8回)。
アロマンティック・アセクシュアルというのは、他者に恋愛感情を抱かず、性的に惹かれない人のことを指します。
LGBTをはじめとして、トランスジェンダーという言葉も広く知られるようになってきた2022年に、普段、なかなか耳にすることのないアロマンティック・アセクシュアルを取り上げています。このドラマは原作がないオリジナル脚本で製作されており、まだ2回目までしか放送されていないのですが、主演の岸井ゆきのさんと高橋一生さんの好演もあり、続きが楽しみなドラマです。
ストーリー
―――恋愛しないと幸せじゃないの? 人を好きになったことが無い、なぜキスをするのか分からない、恋愛もセックスも分からずとまどってきた女性に訪れた、恋愛もセックスもしたくない男性との出会い。 恋人でも…夫婦でも…家族でもない? アロマンティック・アセクシュアルの2人が始めた同居生活は、両親、上司、元カレ、ご近所さんたちに波紋を広げていく…。 恋もセックスもしない2人の関係の行方は!?
テーマ
このドラマのサブタイトルには「この社会に生きる全ての人がきっと笑顔になれる、ラブではないコメディ。」とあります。
職場、友人、家族とのコミュニケーションの中には常に恋愛が前提としてあり、それに違和感を覚えて気持ちのやり場に戸惑っている咲子(岸井)が、アロマ・アセクのブログを通して羽(高橋)と出会います。多くの人にとって当たりまえの“恋愛感情”を持たない、わからないという人の存在に焦点をあて、“当たり前”とは何か?見えていない多様性にはどんなものがあるのか?主人公の二人の日常を通じて、視聴者に改めて問いかけてきます。
印象に残ったシーン(2話まで)
咲子が自分のことをおかしいのかもしれないと思い、ネットで「恋愛 しない 分からない おかしい」というワードで検索をします。このワードもリアリティがあるのですが、検索結果の上位には、アロマ・アセクについてヒットせず、「最近の若者が恋愛をしなくなった理由」であったり出会い系の広告が表示されます。
同じセクシュアリティの人を見つけた喜びで舞い上がり、突然「私と恋愛感情抜きで家族になりませんか?」と持ちかける咲子に「僕のこと舐めてます?」と羽は切り返します。近しいセクシュアリティだからといって、同居できる(したい)というわけではありません。セクシュアリティは大切ですが、人がもつさまざまな価値観の一つにしか過ぎないということを感じさせます。
妹の「お姉ちゃんと、普通に幸せになればいい。」というセリフに、咲子はキレてしまい、勢いで家族の前でカミングアウトをします。これに対して、「試しに一度付き合ってみるのは?恋が芽生えるかもしれない。恋愛感情のない男女が家族になる理由ある?」という母の言葉は咲子の気持ちとまったくかみ合わず、お互い理解できないまま2話が終了します。
感想
アロマンティック・アセクシュアルは、セクシュアルマイノリティの中でもわかりにくいセクシュアリティかもしれません。
他者からはもちろん、自分でも自認しにくいです。これは恋愛感情や性的関心など目に見えないために、そもそもわかりにくいものを、“ない”と確信をもって判断するのはとても難しいからだと思います。
またアロマ・アセクの当事者からすると、同性愛者は恋愛をするから異性愛者と同じマジョリティという感覚を持つ人もいて、いわゆるLGBT(性的少数者)の一つのカテゴリではありますが、他のセクシュアリティの当事者とも感じ方や、困ることも大きく異なるという特徴もあります。
自分のセクシュアリティを自認したばかりの咲子が、そのことを自分の中でどのように消化し、家族や友人、職場で他者とどのような折り合いをつけていくのか、今後の展開にも注目です。