2022年4月からパワハラ防止法がすべての企業に適用になります。パワハラ防止法の中には、SOGIに関するハラスメントもパワハラに該当する場合があると明記されています。
パワハラ防止法に定めるSOGIハラとしては、次の2点があります。
①人格を否定するような発言をすること
②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
このうちの②はアウティングと呼ばれる行為に該当します。このアウティングに関しては、もちろん絶対NGなのですが、職場での事例をみていると判断に困る場面もあり、実際に企業から相談をうけることも多くあります。
今回は、パワハラ防止法で定めるアウティングについて、実際にNijiリクルーティングに寄せられた事例を基に考えてみました。
まずこのパワハラ防止法によると、上記のアウティングの定義に該当し、かつ以下の3つの要件に全てにあてはまる場合にパワハラになると定めています。
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの(精神的・身体的苦痛を与える言動)
セクシュアリティに関することは、マジョリティとマイノリティという関係があるので①の優越的な関係というものには抵触するケースがほとんどになります。
あとの、②と③には該当するかどうかはケースによるので、事例を考えてみましょう。
(事例1)
Aさんは、入社時に緊急連絡先を伝える必要があり、人事部と直属の上司Bさんに対して、同性のパートナーと同居している旨をカミングアウトをし、同時に職場でのカミングアウトについては自分で話したいので言わないでほしいと伝えていました。しかし直属の上司Bさんは、Aさんが入社時に馴染めるようにと考えて、同じ職場の別の社員にAさんのセクシュアリティを伝えてしまいました。
この事例は、Bさんにはいわゆる悪気はなく、純粋に仕事になじめるようにという配慮の気持ちだったのかもしれませんが、Aさんは「言わないでほしい」と明確に伝えており、また②の業務上必要かつ相当な範囲内とは言い難いと思われるので、パワハラに該当する可能性が高いと考えられます。
(事例2)
Cさんは、休日に買い物にでかけたときに、同僚のDさん(男性)が別の男性と手をつなぎ親密な感じで買い物をしているところを目撃しました。後日、Cさんは別の同僚に、この目撃したことを話しました。
この事例では、Dさんのセクシュアリティは明確にわからないので、Dさんはセクシュアルマイノリティには該当しないかもしれません。しかし他人のセクシュアリティに関連することを第三者に吹聴しているという点では、アウティング&パワハラに該当する可能性が高いと考えられます。
(事例3)
Eさんは、新卒の採用の面接官を担当していました。就活生のFさんから面接時に会社としてダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを質問され、同時に自分のセクシュアリティのカミングアウトを受けました。Eさんは、Fさんから特に口止めをされなかったこともあり、採用チームには情報共有をしました。
この事例では、セクシュアリティという機微な個人情報を他の同僚に暴露しているのでアウティングに該当します。一方で、採用面接という場でのカミングアウトであり採用チームで情報共有するのは、業務上必要な範囲という考え方もできます。それであれば、パワハラには該当しないという考えもあり得ます。
このようなケースでは、カミングアウトをしたLGBT就活生のほうも、情報共有をしておいてほしいという意見と、勝手に共有しないでほしいという意見が両方あります。教科書的には、Eさんは、面接の場でFさんに情報共有の範囲を確認すべきということになりますが、もし確認が漏れた場合に、どう対応すべきかは微妙であり、いろんな判断があるかと思います。
(事例4)
Gさんは、同僚のHさんからゲイであることカミングアウトをうけて知っていました。その状況の中でHさんが上司から「オカマっぽい」といってからかわれているのを目撃しました。Gさんは直接、上司を注意するのは難しく、またHさんが困っているだけでなく、そのような職場の雰囲気も嫌だったので、ハラスメント窓口に相談をしました。ハラスメント窓口との相談の中で、Hさんがゲイであるということは伝えず、「オカマっぽい」と言われていることは個人名とあわせて伝えました。
この事例はいかがでしょうか?GさんはHさんのセクシュアリティが「ゲイである」ことは伝えていないので、ギリギリ、アウティングにならないのでしょうか?またハラスメント窓口への相談であればアウティングにはならないのでしょうか?あるいはアウティングに該当したとして、パワハラに該当するのでしょうか?
アウティングは、不可逆的な行為なので、言わない!というのが大原則です。ただ職場では、このように判断に迷うケースがあるのも事実です。まだ社会においても事例が十分に積みあがっておらず、見解が定まっていないのが現状です。
このような状況の中で今、企業に求められることとしては、アウティングがNGだということを社員に徹底するということと、同時に判断が微妙になるような情報共有に関しては、ガイドラインなどを用意し企業としての取り組み方針を定めていくことだと思います。