『LGBTQの働き方をケアする本』

FTMトランスジェンダーの当事者として、多くの当事者の支援を行ってきた宮川直己さんによるLGBTQへの対応をどうするのがいいのか?ということにフォーカスをしている本です。

LGBTをテーマに人事・労務担当者向けに書かれた本はこれまでにも何冊もでています。その中で本書は実務的な事例を多く取り扱い、また対応マニュアルというより、意識・マインド面を大切にしているのが特徴です。

教科書的な知識にとどまらず、具体的にどのような対応が必要かというのを知りたいというLGBT施策を進めるダイバーシティや人事担当者、あるいは経営者には一読をお勧めします。

書籍概要

目次

第1章 LGBTQについての基礎知識

第2章 部下がLGBTQかも?と思った時のQ&A

第3章 カミングアウトを受けた時の対応

第4章 カミングアウトを受けた後のQ&A

第5章 LGBTQもそうでない人も働きやすい職場づくり

第6章 LGBTQ部下とのコミュニケーションのコツ

基礎知識部分は、コンパクトにまとめられており必要最低限は網羅されています。また実際によくある事例をQ&Aとしてまとめているので、とても読みやすく、通読するだけでなく、目次をみて興味を持った部分から読んでみるのもおススメです。

印象的なコンテンツ

『部下の男性が突然、女性の容姿をして出勤しました。どのように対応すればいいでしょうか?』『パス度が低い当事者が、性自認と一致する服装をしようとすると、どうしても周囲に違和感を感じさせ、好奇の目にさらされることも珍しくありません。』(P101)

パス度とは、望む性別として周囲から認識される度合いのことを意味しており、パス度が低い、とかパス度が高いというような言い方をします。このような書籍でパス度について、言及されているケースはかなり珍しいです。実際の職場では、パス度によって周りの受け入れる反応が違うのも現実です。ただパス度の高さとは別に、本人の想いをどうくみ取れるかというのは周りの意識の問題になります。

『トランス女性の従業員が女性用トイレを使うことに、他の女性従業員が反対しています。当事者の従業員に我慢をしてもらいたいのですが』(P185)

このような事例もしばしば耳にします。この課題に関しても、正解は一つではなくいろいろな方法が考えられます。

本書では、解決策の一つとして『反対意見を示している従業員に別のトイレ使用を促す』という案を提案しています。これは、反対意見を示す従業員の嫌悪感の根本は、周りの理解不足や偏見にあるとする考え方です。まだなかなかこの案は受け入れられにくいと思いますが、このような方法も検討したうえで、最終的な意見調整をするというのも大切な意識だと思います。

感じたこと

本書はLGBTQ全般について書かれてはいますが、その中でもトランスジェンダー男性としての筆者の実体験に基づいてる記載は、興味深いです。トランスジェンダー女性のトイレ問題はよく耳にしますが、トランスジェンダー男性のトイレ問題についても書かれています。あまり目にすることはないと思うので、一読をお勧めします。

また本書ではLGBTQ当事者と面談する際のヒアリングシートが紹介されていたり、面談する際の具体的な会話事例なども掲載されています。基本的にはケースバイケースなので、これをそのまま使えるわけではなく、随時、工夫が必要にはなりますが、かなり参考になると思います。

人事・ダイバーシティ担当者にはおススメの一冊です。