『少年と少女のポルカ』

『六月の夜I』

『六月の夜II』

芥川賞作家の藤野千夜さんの作品です。この本が書かれたのは1996年なので、30年近く前のことになります。(六月の夜は、続編として2018年に出版されています)

3人の高校生がメインの登場人物としてできます。一人はホモ(1996年に書かれているのでゲイではなくホモと書かれています)、一人はMTFトランスジェンダー、一人は精神的に電車に乗れなくなってしまった女の子の3人です。それぞれは友人ですが親友というわけでもなく、つかず離れずの人間関係を軸に書かれています。

読んだ感想としては、30年前はこんなに軽い感じではなかったという意見もあれば、自分の高校時代によく似ているという意見もありました。文体も内容も軽い感じで書かれています。セクシュアルマイノリティの高校生活の一つの形として読んでみてはいかがでしょうか?

書籍概要

恋するオトコと悩めるオトメ。

男が好きなトシヒコ、女になりたいヤマダ、電車に乗れないミカコ。心と身体の違和感にふるえる3人の高校生を鮮烈に描く、新感覚の青春小説。

男子校へ通うトシヒコは陸上部のリョウに恋してる。同級生のヤマダは「間違った身体に生まれたから」と女性ホルモンを注射する。幼なじみのミカコは突然、怖くて電車に乗れなくなった。心と身体の「違和感」にふるえる3人の青春を軽妙に描く芥川賞作家の作品集。

印象的なコンテンツ

『自分の身体は自分の思うものに少しずつ近づいてきている。その実感はヤマダをもちろん幸福にした。』(P38)

小さい頃から女性としての自認があり、自分の男としての身体に違和感があり、大人になれば女性の体に自然になれると信じていたヤマダにとっては、治療によって身体があるべきところに戻っていくというのは何よりも大事なことというのが描かれています。

トランスジェンダーといった場合に、社会的な役割に違和を感じる場合と、身体性に違和を感じる場合がありますが(両方という場合もあります)、ヤマダにとってはまずは身体の違和が大きかったのです。

『スカートみたいなキュロットならもう誰も気にも留めないくせに、本物のスカートだと知れるとひとしきり騒ぎになった。』(P55)

男子校の中で、一人女性らしい格好で登校続けていたヤマダですが、それでもスカートは履かずキュロットまでに留めていたのが、ある日、本物のスカートを履いてきたことで学校中が大騒ぎになり、知り合いでもない生徒がわざわざスカート姿を見に教室まで押しかけ、母親が即日呼び出されることになります。

キュロットとスカートの間にそれほどの違いがないような気もしますが、これは著者の藤野千夜さんが、以前、会社勤めをしていたときに、結局スカートが原因で退職に追い込まれたという経験をベースに書かれているそうです。ヒラヒラしているという意味ではどちらも似ているのですが、足と足の間に仕切りがあるかどうかで、対応が変わる社会があったのです。

『「ノンケ寄り」、ノンケではなく、ただちょっとノンケに近いという、そんな繊細な自慢にトシヒコも笑い、でも自分にもそんな時期はあったと思った。』(143)

これは高校時代から20年経った続編の中の描写です。

高校時代のトシヒコはゲイであることに悩まないと決めつつも、どこかでゲイと括られるのも拒んでいました。38歳になり、同性のパートナーができ家族にも紹介をします。歓迎はされなかったけれど、ゲイであることを受け入れ、周りにも言えるようになっています。

感じたこと

この話は決定的な事件や出来事もないですし、人間関係にも大きな変化はありません。3人の登場人物もそれぞれに悩みは抱えているし思い通りにならないこともたくさんありますが、それでもとても軽く、前向きに自分の道を生きています。セクシュアリティは特徴的な切り口ではありますが、高校生が自分と向き合いながら、思春期特有の心の揺らぎの中で深刻になりすぎず生きている、そんな話です。特に中高生におすすめの一冊です。